晴れて冒険者
試験が終わると、彼女は攻撃的な雰囲気が鳴りを潜めた。元に戻った彼女は戦闘中の記憶はあるようで、どうやって勝利したのかも覚えているようだった。そして、フィムストの大剣を消失させたことを何度も謝っていたが、どうやら彼女は予備を何本か持っているようで大して気にしている風ではなかった。試験官になれる実力があるのだから、そういった予備を持っているのは普通のことなのかもしれない。しかし、フィムストが気にしていないと言ってもフローは気にしているようだった。
「大丈夫ですよ、本当に。むしろ、あなたが気にし続けていることの方が、私にとっては迷惑なくらいですから。試験官をやっていれば、大剣くらいなら壊れることもあります」
彼女はどんな時でも余裕があるなとサクラは思った。
それから、フローはナチュレ、フィムストと共にギルド内の一室に連れていかれた。サクラの時と同じように冒険者の説明を受けるのだろう。それから少し待っていると、フローとフィムスト、ナチュレが出てきた。それから受付に行きナチュレから冒険者カードを受け取っていた。彼女も今日から冒険者と言うわけだ。その様子を見ていたサクラがナチュレに手招きされていた。
「サクラさん。フローライトさんの依頼を一緒に受けてください。本来なら試験官が付き添いをするのですが、フィムスさんには沢山の指名依頼がありまして、付き添いが出来そうにないのです。ですから、そろそろ慣れていて、彼女と親交のある貴女に付き添いをしてほしいのです」
サクラは迷うこともなく二つ返事で了承した。フロートは友達だと思っているのだから、それを拒否する気もさらさらない。冒険者になったら一緒に依頼を使用と思っていたのだから、願ったり叶ったりだった。
「それではよろしくお願いします。……ああ、それと試験官資格のある人たちが全員しばらく手が空きそうにないので、サクラさんに試験官をやってもらうかもしれません」
それはナチュレやギルドの判断がおかしいというわけではなく、彼女の活躍が他の冒険者よりも上と言うだけだ。このギルドは試験官をできる人以外の冒険者は大した活躍をしていない。仕事をしていないと言わけではないが一か月に一回程度の魔獣討伐依頼を受けて、それ以外は探し物の創作や町中で商品の運搬作業、建物の建築の手伝いに各店舗に従業員として働くなどの依頼ばかりをこなしているのだ。そうなれば、魔獣討伐をメインで依頼を達成しているサクラが必然的に試験官資格を与えられるというわけだ。サクラがギルドで依頼を達成し続けている間、彼女は他の冒険者と会ったことがないのが何よりの証拠だ。そして、彼女もそれを理解しているので、試験官の能力をもった人たちが町の異常に対処する依頼をこなしているとなると、自分にその役目が来るのだろうと簡単に考えることが出来た。最初にサクラが来た時に、意地悪をしてきたあの冒険者も口だけ大きいらしい。何はともあれ、彼女は試験官になることも了承した。冒険者が多い方がこの町も平和になるかもしれない。それに依頼をこなせる人が増えるということはこの町で困っている人が少なくなるということだろう。町が良くなるのに協力しない理由はない。
「では、試験官の話は次の冒険者認定試験を受けたいという話が来たら、お伝えします。それでは、私は仕事に戻ります」
そう言って、彼女は受付からいなくなる。異常な依頼の処理に追われているのかもしれない。その全てがゾディアックシグナルのせいだとは思えないが、この異常に関わっているのだろう。何とかして止めたいと思うが、何の手がかりもない状態ではどうしようもない。
「サクラ。すぐに依頼を受けてもいいのだろうか」
「ああ、はい。大丈夫ですよ。私もメイトさんに付き添いをしてもらって、すぐ依頼を受けたので」
「そうか。じゃ、付き合ってくれないだろうか」
「もちろんです。どんな依頼を受けますか」
彼女は依頼が貼ってある掲示板を見ながら、片腕で肘を支え、支えたその手をグーにして、顎を乗せて依頼を選んでいるようだった。しかし、その時間は短く、すぐに一枚の依頼を掲示板から剥がした。その依頼には盗賊討伐と書かれていた。その依頼の紙が少し色あせているところを見ると、長い間そこに貼られていた依頼なのかもしれない。それか何度も張りなおしている内にそんな色になってしまった可能性もある。どちらにしろ、危険な依頼の可能性の方が大きいだろう。しかし、サクラはそんなことを考えずに、いつの間にか戻ってきていたナチュレにその依頼の紙を見せた。
「この依頼をフローライトさんが受けるのですか。あまりお勧めできませんが」
ナチュレはそう言ったものの、フローはその依頼を受けると頑なにそう言った。彼女は元々、悪を許すことのできない性質だ。その彼女が盗賊討伐の依頼を放っておけるはずもない。結局、二人はその依頼を受けることにしたのだった。




