フローの冒険者認定試験 3
フィムストは大剣は抜かず、拳を突き出して、彼女が出していた短剣をへし折った。フローは再構築したかったが、その暇もなく相手の足が飛んでくる。短剣の破片が地面に転がっている。いきなりきた連撃に対応するために、フローは短剣が手から離れ地面に転がってしまった。相手はその短剣を踏みつぶしてバラバラに壊した。破片は彼女の再構築の力を失い、空気に溶けてしまった。そうなるともう元に戻すことは出来ない。新しい何かを分解しなくては、再構築は出来ないというわけだ。フィムストはこの状況を意図して作り出したのだ。超能力は戦闘でも器用に立ち回るのに便利だ。しかし、超能力が使えなくなる状況も少なくないのだ。彼女の透過の能力も時間制限がある。足を透過することも出来ない。足を透過すると、地面をすり抜けてしまうからだ。武器を持っているときには手を透過することが出来なくなる。透過という超能力は確かに相手からの攻撃を受けないというという点だけを考えると強力だが、透過してはいけないという状況では全く意味を成さない。その状況でも戦えるのかどうかが、重要だ。
大剣を使わずともフィムストの攻撃は威力が十分にありそうだった。一撃でも攻撃を受けると、かなり体力を持ってかれることは間違いないだろう。今のところ、フローは何とか回避できている物の、全てギリギリの回避だ。それもフィムストが遣ったような余裕の回避ではなく、焦って攻撃の直前で無理やり体を動かしているような状況だ。回避以外のことに頭を使うことが出来ない。打開策を考える余裕もない。そんな状況であるのにも関わらず、彼女はサクラと戦う前、自分の正義に反する人たちを捌いていた時のことを思いだしていた。あの時には、今以上の力を出していた気がするなと、記憶と共に頭にそんな言葉が浮かぶ。自分がなぜ今苦戦しているのかもわからなくなってくる。自分の体も相手の攻撃もゆっくりと動いているような感覚と、後頭部の辺りが重く鈍くなっているような感覚に襲われる。その割には思考はとても、透き通っている。そのせいか、相手の攻撃を簡単に回避できているような気になっていた。相手の中に隙が見えた。サクラと一緒に行動する前はこんな世界を見ていた気がする。その時はここまで動けていなかったかもしれないが。相手の格闘の間に自分の手足を差し込んでみた。相手の攻撃が止み、距離を取られる。その動きも追うことが出来た。相手のいる場所の地面を突き上げて、相手のバランスを崩す。しかし、それは当たることはなかった。だが、相手がその魔法を回避している間に、彼女は翼を広げて、相手に急接近した。翼で相手の胴を打ち、体を地面から離し、翼を大きく振って相手を投げ飛ばす。フィムストはくるくると体を回転させて、身を低くして着地したが、その着地を狙っていたかのように、水の球が飛んでくる。相手の体は未だ次の行動に移ることが出来ず、透過して回避する。彼女が認識できない攻撃は、透過できない。彼女に翼を当てられたのは、フローの移動を認識できなかったからだ。
「改めて、手合わせ願う」
フローの雰囲気が最初と違う。サクラに合う前の攻撃的な態度。自分以外が悪だと言わんばかりの攻撃性。
「なるほど。ここからが本当の本気ですかね。私も剣を抜いた方が良さそうです」
フィムストは背負っていた大剣のグリップを握り、大剣を抜いた。灰色で装飾はない彼女と同じくらいの大きさの大剣。
「風よ。ブラストウェイブ」
フローが魔法を唱えると、フィムストに向かって風の塊としか思えないものが相手に飛んでいく。彼女はそれを透過せずに回避する。大剣を器用に足場にして高く飛び、その魔法が彼女がいた場所を通りすぎた。そのまま高所からフロー目掛けて大剣を振り下ろす。落下の勢いもあり、地面に多少ひびが入る。フローは大剣を紙一重で回避していた。先ほどの仕返しと言わんばかりだ。そのまま、彼女は大剣に触れる。剣を分解して、自分の手元に片手剣として再構築した。その剣で相手の胴を斬り裂こうと振るが、それが当たることはなかった。
「私としたことが剣を奪われるとは。少し焦りましたか。しかし……」
フィムストは体勢を低くして、フローのとの距離と縮めた。その勢いのまま相手の手から剣を奪った。
「私は大剣だけ使えるわけでは――」
そう言っている間に、彼女の剣は粒子になって空中に消えていく。
「焦ったようだな」
分解したものは彼女の手から離れると粒子と化して、宙に溶ける。それを認識していなかった。分解して再構築する。そこまでしか理解していないフィムストにとっては何をされたのか理解できていないだろう。しかし、そこで終わる彼女ではない。まだ、彼女には格闘がある。彼女が近づいて連撃を与えようとするも、その攻撃は簡単にいなしてしまい、挙句、彼女の腕を取ってくるりと一回転させて地面に叩きつけていた。フィムストは大した傷を負っていない。地面に叩きつけられた衝撃は既に慣れたものだ。しかし、これ以上戦闘しても勝てる未来が見えない。
「私の、負けですね」
降参の宣言があり、フローライトの試験は終わった。




