フローの冒険者認定試験 1
メイトからの話から何日か経っても特に表立ってゾディアックシグナルが活動しているところに遭遇することはなかった。それどころか、表面上だけ見れば町は平和そのものだ。商業地区は活気があり、町行く人も健康そうな明るい表情で歩いている。表面上では何も起きていないということは裏では何が起こっているのかわからないということである。見た目平和であれば、悪を捌こうとする必要がないのだ。そして、サクラは表しか見ることが出来ない。子供である彼女は夜や裏路地で一人で行動できない。それはこの町の大人たちがそうしているのもそうだが、彼女は未だに誘拐に対しての恐怖心を克服できていない。すぐに克服できる物でもないのだろう。
「そう言えば、フローは冒険者の試験は受けたんですか?」
サクラは今、ギルドから出てきて商業地区の露店を見て歩いていた。その途中でフローと出会い、二人で町を歩いている。ゾディアックシグナルが出てこない間も彼女はギルドでの活動をしていたのだが、ギルドの活動ではフローを見ることはなかった。それが嫌だとか怒っているとかそう言った話ではないが、気になったのだ。
「試験をできる人がいないようなんだ。だから、まだ冒険者とやらには慣れていない。すまない」
「いや、謝ることではありません。仕方ないことですよ。そう言えば、この前会ったメイトさんも試験官の資格があるはずですよ。今度会ったら、フローの試験官を頼んでみます!」
「そ、そうか。ありがとう」
そうは言ったものの、ここ数日間、ギルド内でも彼を見た記憶はない。あの鍵を受け取った日から彼を見かけていないのだ。ウェットブルーに何度も顔を出していた彼女だが、それでもメイトの顔を見ることもなかった。もしかすると、彼は既にゾディアックシグナルのメンバーを探しているのかもしれない。しかし、彼以外の試験官もいるはずなのだが、その試験官もいないのだろうか。その試験官たちもメイトのように相手を知らなくても異常な依頼の対処をしているのだろうか。それにしても一人もいないのでは、冒険者が一人も増えないというわけだ。それなのに、依頼は増える一方のはず。負のスパイラルに陥っているのかもしれない。彼女は少し悩んだ後、フローを連れてギルドに戻った。
彼女がギルドに入ると、今まで馬鹿にしていた人たちは、彼女に話しかけるのもやめていた。ドズを倒した相手に、今更たてつこうとは思っていないのだ。そして、その強い人物の神経をいつ逆撫でしてしまうか割らない以上、関わらないというのが正しいと判断しているようだ。サクラはそんなことには気が付かず、受付にいつもいるナチュレに話をする。フローの試験官をする人はいないのか、と。冒険者が話をした方が話を通しやすいかもしれないと少し淡い期待もしていた。
「そうですか。先ほど、試験官資格を持つ冒険者が戻ってきましたが、どうしますか。すぐに受けるということであれば、頼んでみますが」
「フロー、どうしますか」
フローに視線をやると、既に彼女はやる気満々と言った目をしていた。
「もちろん、受ける。よろしく頼む」
「だそうです」
「わかりました。では、少し待っていてください」
そこまで待つことなく、ナチュレが戻ってきた。そして、彼女の隣は全身鎧の女性がいた。背の高さはフローよりは低く、サクラよりは高いくらい。赤い髪と猫の目のような赤い瞳が印象的だ。全身を包む鎧はくすんだ銅のような色をしていた。彼女の鎧は胸を強調しているようなもので、身長の割にはかなり大きい。そして、身長や見た目とは裏腹に彼女が手に持っているのは大剣だ。その大きな剣身が彼女の背中に背負われた鞘の中に納まっていた。
「こちら、レヴィさんです。実力はメイトさんと同じくらいと思っていただいて構いません」
「フィムスト・レヴィです。試験しますのでよろしくお願いします」
彼女の話し方はどこか幼さを感じさせるよな舌足らずのような発音だった。しかし、見た目を見る限り、その口調に油断してはいけないのだろう。実力もメイトと同じくらいと言うことは、本当に油断できない相手と言うことだ。戦闘慣れしてないとは言え、圧倒していると思っていたのが気が付くと逆転している。メイトと戦った時のことを思いだす。彼と同じような戦い方をするわけではないだろうが、その戦いをみたいとは思う。
「ああ、宜しく頼む」
「では、試験会場に行きましょう。サクラさんは見学しますか」
「あ、いいんですか? いいなら行きたいです」
彼女はまさか、試験を見学できるとは思っていなかったので、ナチュレの提案にすぐに乗った。そうして、三人はナチュレに付いて行く。試験会場は前にサクラとメイトが戦った、あまり広くはない四方を壁に囲まれたフィールドだった。サクラは塀を上から見ることのできる場所で観戦することになった。ナチュレも前はこの場所にいたのだろう。
「それでは、双方準備はよろしいですか」
フィールド内にいる二人が頷いた。
「それでは、開始!」
ナチュレの声が二人の間に響き渡った。




