鈍痛の知らせる悪 3
「今の人がその無気力になる症状を引き起こしている原因ですか」
「証拠はねぇが、多分そうだろうな。あの注射器を奪えれば、証拠になんだろうよ」
一応、目星はついたものの、相手の素性はわからない。全体的に緑であるということしかわからない。それだけで人を探せば、この町に何十人と特徴が被っている人は出てくるだろう。いきなり、殴るわけにもいかない。
「あの手の奴は、また明日の夜もこの町に出てくんだろ。また明日も付き合ってくれるか?」
「当たり前です。一緒に戦いましょう。この町を守るんです!」
サクラの自信満々な笑顔が、オブにも元気を与えていた。
再び、夜。広場の噴水の辺りを待ち合わせ場所にして、二人は合流する。サクラとオブの二人は更に暗くなるまで、とりあえずリキュアライフで楽しく時間を潰した。そして、前日と同じくらいの時間帯。正確な時間はわからないが、二人は暗い道を歩いていく。そして、昨日とは違う道ではあるが、そこに昨日見たものと同じ人影を見つけた。今回は、通行人はいない。そして、相手も二人に気が付いた。
「しつこいね。それとも暇なのか?」
相手は右手に注射器を持っている。その中に緑色の液体が入っているのが見えた。オブがサクラより一歩だけ前に出た。
「なぁ、ずっと聞きたかったんだが、あんたのその薬ってのは、どんな効果があるんだ」
相手は腕を組んで、首を桁向けた。それは中身を知らないという意味ではなく、その薬について話してやろうかどうかを考えているだけだった。しかし、相手が答えを出すまで、オブとサクラは相手に何もできず、ただただ立っていることしかできない。
「いいや、教えてあげるよ。この薬は無欲になる薬なんだよね。何も考える必要がなくなるんだ。苦しいことも嬉しいことも感じないし、考えない。ほら、幸福だろ?」
相手はその幸福に疑いはないようだ。何も考えず、何も感じない。それは不幸と感じなくなるだけだ。その代わりに幸福とも感じないだろう。オブもサクラもそれを幸せだとは思わなかった。
「で、それを何人に打ったんだ?」
「さぁ、二十人くらい? いちいち覚えてない。治癒師だって自分が治した人全部覚えているわけじゃないよ、きっと」
適当な奴だな、と二人は思った。こんなやつにこの町がめちゃくちゃにされようとしていると思うと、腹立たしい。オブはここで相手を捕まえようと思っていた。サクラも同じことを思っている。
「聞くこたぁ聞いたし、ここでぶっ倒れてもらうぜ!」
彼女は昨日と同じように、その場で拳で殴りつける。相手はその力をまだ知らない。昨日いきなり顔に衝撃を受けた理由は理解していないのだ。相手は昨日と同じように顔に衝撃を受けて、後ろに吹っ飛んでいく。その衝撃は昨日と同じだ。つまりはその攻撃で後ろに飛ばしてしまっては、また逃げられる。しかし、昨日と違うのはサクラも戦闘の心構えが出来ていることだろう。昨日と同じように、相手は逃げようと反転して、二人から離れようとしていた。しかし、今日はそれを許さない。
「土よ。クレイウォール」
サクラが唱えると、相手の行方を阻む土の壁が出現する。相手はその壁の前で足を止めるしかない。再び、相手が反転。オブとサクラと対峙する形になる。相手は少し焦った顔になったかと思ったが、次の瞬間にはにやりと不気味な笑みを浮かべていた。
「私の超能力を見せてあげよう。と言っても、そこに大きい方は見たことあるはずだけどね。まぁ、覚えちゃいないだろうけど」
馬鹿にしたように鼻を鳴らす。そして、彼女から二体の彼女をコピーしたものが出てくる。しかし、一体は彼女の背丈の半分で二体目は更にその半分だ。三人並ぶと姉妹に見えるが、小さくなったこと以外の見た目は同じである。
「それじゃ、私の施術を見せてあげる!」
三人同時に動き出す。サクラは三人のスピードを目で追えたが、オブは一番背の低いのを目で追うことは出来ていない。そして、それは瞬時に相手にばれていた。相手に認識できていないのだから、不意打ちなどは簡単なことだ。背の小さいのが、オブの首筋を狙って注射器を突き立てようとした。しかし、それをサクラが防ぐ、相手がオブに気を取られている間に、彼女は変身していた。そして、小さいのの前に土の壁を作り出していたのだ。しかし、その小さいのに気を取られて、隙が出来ているのはサクラも同じだった。オリジナルが彼女へ向けて、注射器を投げる。それはオブが彼女を守るのを見越してのものだ。注射器の中には人間を毒殺する薬品が入っている。人間の心臓を一瞬で止めるための薬だ。注射器は針をサクラに真っ直ぐにサクラに向けて飛んでいく。オブはサクラを片手で引き寄せて、彼女は注射器から守る。しかし、彼女の腕に注射器が突き刺さり、中の毒薬が彼女の腕に勝手に注射されていく。注射器一本分だ。オブは全身が痺れるような感覚を覚えた。頭の奥から痛みが噴き出してくるような感覚。全身を巡る魔気が彼女の体を攻撃してきているような感覚。しかし、彼女は両足をしっかりと地面に着けて立っていた。サクラを守ることを止めようとはしなかった。




