鈍痛の知らせる悪 2
「お、いらっしゃい! お二人さん!」
サクラはオブを無理やりいつものカウンター席に座らせた。
「なんだ。嬢ちゃんに連れてこられたのか?」
「そうなんです。私が連れてきました。オブ姉がいつも頼んでるものをお願いします。私にもおいしいものをください!」
「わかったぜ。舌が痺れるくらいおいしいものを作ってやるから待ってな!」
店主はそう言うと、オブには大きなジョッキに注いだビールのようなお酒を、サクラにはオレンジジュースのような色のジュースを出してから料理を開始した。
「オブ姉。とりあえず、飲みましょう?」
「あ、ああ。わかった」
サクラがオレンジ色の液体の入ったジョッキを両手で持ち上げているのをみて、オブは片手でジョッキを持ち上げて、彼女のジョッキに軽くぶつけた。チンという音がする。二人はそのまま、ジョッキに口を付けた。オブはジョッキの三分の二程度まで飲み干したが、サクラはそこまで飲めていない。二口ほどだ。それでも、ぷはぁとオブと同じ声が出た。
「はは、いい飲みっぷりだな」
彼女は少しだけ元気になったようだった。それでもまだどこか影があるというかどんよりとしたような雰囲気だ。
「すまねぇな。オレの方が元気づけられるなんてな。オレの方がしっかりしねぇと行けねぇのに」
彼女は顔は笑っているがどこか苦しそうに見えた。独りぼっちと言うか、寂しそうな雰囲気だ。きっと、オブにもサクラに初めて出会ったときも自分がこんな風に見えていたのかもしれないと思った。
「そんなことは気にしてません。お姉ちゃんなんだから、もっと妹を頼った良いんです!」
サクラが飲んでいるのは酒ではない。しかし、その場の雰囲気がそうさせるのか、彼女は普段なら恥ずかしいと思うような言葉を並べ立てる。しかし、だからこそ、その言葉はサクラの本心であった。きっと独りぼっちは寂しいのだ。サクラは最初から、彼女のことを一から全部理解できるとは思っていない。顔女はオブの手に自分の手を乗せる。
「今度、一緒に遊びましょう。気晴らしも大切です。私の友達も紹介したいんです」
「ああ、そうだな。こんな場所だけってのは、味気ねぇしな。つっても、ここ以上の場所は知らねぇんだけど」
「それが良いです。オブ姉ともっと仲良くなりたいんですから」
オブ姉はようやく笑顔になり、サクラの頭に手を乗せ、撫でた。一回だけでなく、何度も。乱暴ではなく、やはり彼女が優しい人だとわかるほどに。
その後、本当においしい料理を食べて、二人で談笑していた。特にサクラの冒険者としての活躍の話を聞いたオブは楽しそうだった。彼女も冒険者であるため、一緒に依頼をこなしてみたいとも言っていた。サクラは二つ返事でそれを了承した。
「うあぁあっ。久しぶりに楽しかったぜ。ありがとな」
彼女は両手を上げて伸びをしていた。この店に入る前とは全く正反対の表情で晴ればれとしていた。一瞬、天を見た後、彼女はサクラに視線を向けた。
「なぁ、サクラ。今日、ナチュレに聞いたんだが、ここ最近、依頼の量が増えてるらしいんだわ。そんで、オレは今、突然無気力になる症状について調べようとしてんだが、一人じゃ無理だ。だから、その、手伝ってくれねぇか」
「もちろん!」
オブは少し照れた様子で、サクラから顔を逸らしていた。サクラは満面の笑みでサムズアップまでして、オブの言葉を了承していた。いつの間にか、彼女の中のイライラも、頭の奥の鈍痛も失くなっていた。
オブとサクラは夜だというのに、人気の少ない通りを歩いていた。数人と言うか、彼女たちをすれ違う人はほとんどおらず、たまに一人だけすれ違うと言ったような、人通りの少なさ。サクラ一人であれば、誘拐でもされそうなシチュエーションだろう。そして、二人の目の前で、通行人に襲いかかる緑の服の髪の太い人が現れた。その人物は、二人に気が付いていた。明らかに二人に視線を送りながら、通行人に何かしようとしている。まるで、止めなくていいのかと言っているようだ。
「やめてください。何をしてるんですか」
緑に人物を止めたのはサクラだった。とは言っても、すぐに手を出すわけではない。
「やぁ、ミラクルガール。この状態で私を止めるのは無理だと思うけど?」
「やってみなきゃわからないですよ」
サクラの手には鍵が握られているが、相手は既に注射器の先を相手の喉元に突き刺す寸前だ。変身している間に注射されるだろう。サクラもそれは理解している。彼女がどうすれば助けられるのか考えている間に、相手が吹っ飛んだ。注射器は宙を飛び、通行人はその場に尻を付いて転んだ。注射器を構えた相手はかなり吹っ飛んでいった。しかし、体をくるりと回して、足から着地する。何度か跳んで、勢いがなくなる。しかし、相手の口の端から血が垂れていた。
「痛いね。何をしたのかわからないけど。じゃあね!」
相手は素早くその場から跳んで撤退していった。
サクラの隣でオブは誰かを殴った後のような体勢になっていた。相手をぶっ飛ばしたのは彼女だ。これが彼女の超能力。距離を無視した物理攻撃を当てることが出来るという超能力だ。彼女は今、近くにいなかったあの緑の奴を殴り飛ばしたのだ。オブはすっきりとした表情をしていた。そして、サクラに少し自慢げに、拳を見せたのだった。




