乱暴者の冒険者 3
サクラが接近していることに気が付いて、ドズは斧を振り回す。しかし、移動しながらだと斧は言うことを聞かない。サクラの接近を許してしまう。彼女はスッと斧の下をくぐって、彼に接近する。低い体勢を利用して、ばねのように体を浮かせる。地面を蹴った足とは反対の足を上にあげ、ヒールが相手の顎を突き刺す。貫通はしない者の、剣か何かが突き刺さるような痛みを彼に与えていた。声も漏れずに彼は後ろに倒れた。しかし、彼はすぐに起き上がった。再び斧を手に立ち上がる。そして、既にクレーターから抜け出していた。隣にクレーターはあるものの、彼の超能力が力を発揮できる状態だ。しかし、凹凸を付ければ、彼の動きを封じることがばれてしまっている。だから、サクラは地面に小さな山をいくつも出現させた。山の高さは、膝より低く、一度に壊せる量は多くとも、その程度の小山なら消されたら戻せばいいだけなのだ。彼もそれに気が付いていて、山を壊そうとはしない。彼はその場で止まり、拳を天に向けて突き出した。
「これはあんまり使うなって言われてるんだけどな。ミラクルガールを倒すなら使うってもいいだろ」
彼の手の甲にマークが現れる。芋虫が体を前に進むのに、体を曲げた様子を線にして、その先に小さな円を付けたようなマークだ。雰囲気でいえば、サクラの持つ鍵に書かれたマークに似ているかもしれない。相手の手の甲に描かれたマークが良く見えないため、変身の時に使用している鍵に着いたマークに似ているかどうかは判断できなかった。そして、拳を掲げた彼の体に変化が起きる。全身から白く綺麗な毛が生える。前のめりに倒れたかと思いきや、手を四足歩行の動物のようにつく。手から離れた斧を口で噛んで持ち上げた。グルルゥとトラのような姿になった彼の口から唸り声が漏れた。
サクラはまさか人間が凶悪な動物になるとは思わず、右足が少しだけ後ろに下がった。ドズはその動作を見逃さない。虎化した彼は動物のように鋭い感覚を持っている。相手のその少し怖がっている様子も簡単に感じ取れるのだ。彼はその場で少しだけ跳ぶと、そこから直線に移動してくる。その速さを誰も認識できない。虎化によって、超能力を空中でも使えるようになっていた。サクラがその事実をわかったところでどうしようもない。少しの恐怖と、超能力の使用によって反応が遅れる。ドズが人型なら回避も出来ただろう。しかし、虎化して口にくわえた斧は素早く、回避しきれなかった。彼女は体を捻り、胴に当たらないようにはしたが、肩に斧の頭が引っかかるようにぶつけられた。足が地面から離れ、何度か回転して体で着地する。さらに地面を転がった。ようやく回転が止まり、立ち上がった。サクラはドズの居た方を見ると、既に近くにいた。結構飛ばされたはずなのだが、空中を高速移動して近づいてきているのだ。サクラは怖がっている場合ではないと思い、拳を握る。それで怖いという感情をごまかすために心を奮った。
直線でしか移動できないのは変わっていない。彼女は地面から四方を囲う壁を作りだす。その箱を地面から柱を映えさせて持ち上げる。中にいる彼女も高い位置に移動する。
グルゥウアァアア!
いつのまに来ていたのか、彼女の作り出した箱の上に白い虎がいた。真下にいるサクラを見下ろして、方向を上げた。口角を上げているようにも見える。彼女は自分で作った箱の上に網目状の風の刃を出現させる。詠唱が必要ないため、相手がそれに気が付かないと思ったのだ。気付いたとしても、この網を潜ろうとはしないはずだ。触れるだけで無事では済まないのだから。しかし、サクラのその作戦は根本から間違っていた。虎化したからと言って魔法が使えなくなるわけではない。そもそも、この世界の動物は魔法を使えるものもいるのだ。虎の前に水の壁が作り出され、そこから水が箱の中に流された。水位が上がり、自らの風の魔法に切り刻まれそうになる。彼女はその魔法を解除するしかなかった。水が箱から溢れて、地面まで流れ出す。水が退くとサクラはその場に四つん這いになって、何度もせき込む。彼女は元の世界でも泳げなかった。浮くことくらいはできるが、クロールなどでなぜ前に勧めるのか理解できないような人だ。そして、その隙に虎が二撃目の大斧を当てようとしていた。それも横凪ではなく、真上から真下へと落下の力を使った一撃。既に、彼女の真上からの落下が始まっている。彼女はそれに気が付いたが、体が言うことを聞かない。水が怖いわけではない。死ぬかもしれないという恐怖が彼女をそこから動かさないのだ。落下してくる斧を見ることしかできない。目も瞑らず、白い虎と斧が落下してくるのをぼうっと見つめていた。




