天使の友
「ラピス。ありがとうございます。その、明日は一緒に買い物しませんか」
サクラはラピスとの距離感をまた縮めたくて、薬を塗ってもらっている間にそういった。
「それは、駄目です。サクラさんは体を休めてください」
もうこれ以上距離は縮められないのだろうか。仲良くなりたいという気持ちはあるのに、踏み込むことができない。期待と不安がある。ラピスは仲良くなりたいと思ってないかもしれない。彼女に心がないというのは未だに信じていない。だからこそ、彼女が自分のことをどう思っているのかが気になるのだ。
「……明日は、頼まれたことはありません。サクラさんが許してくれるなら、ここに来ます」
ラピスが微かな声で、この部屋のように静かな場所でないと聞き逃すような声で、そう呟いた。サクラは、ラピスと視線を合わせる。彼女がそういったことを言うのは珍しいのかもしれない。今までの彼女のことを考えると、自分の意見や心情を表すのは苦手そうだ。それでも、彼女は微かな声で、そう言ってくれたのだ。
「来てほしいです。ラピスに近くにいてほしいです」
「わかりました。それでは、明日はここに来ます」
結局、ラピスの言葉は淡々としている。しかし、少しではあるかもしれないが、彼女との距離が縮まった気がした。
ラピスのサクラへの応急処置も終わり、しばらく経った。天使は未だ部屋に中央で寝ている。あの激しい戦闘をした後なのだから、すぐには目を覚まさないとは思ったが、そこそこに時間が経った。サクラがそう思ったとき、天使の翼がピクリと動く。天使の手が額を抑えるように当てられて、天使が体を起こした。
「……ここは」
天使は辺りを見回して、そこがどこかを探るが、どこだかはわからない。そして、彼女の視界に先ほどまで戦っていた少女が目に入った。
「まさか、私を助けたのか。あれだけの戦いをしたと言うのに」
サクラは舌を出して、意地悪を言った。
「まさか、約束忘れてませんよね。勝ったらいうことを聞いてくれると言いましたよね」
「あ、ああ、そうか。そうだったな。よし、私に二言はない。なんでも言うことを聞こう。一生仕えるか。奴隷か。痛めつけるか。何にしろ、私は貴様の言葉をその通りに聞こう」
サクラは天使が言ったようなことをするつもりはなかった。何せ、彼女は美人だ。近くで見ると余計にそう感じる。艶のある白く長い髪は座った状態だと床に広がるほどの長さで、釣り目気味の目の奥にある瞳は金色の瞳。高い鼻に細い輪郭。堀の深い顔。凛々しく、格好良い。真っ白な翼が彼女を神々しくしている。すらっとした体で腰が細い。ワンピースのような服が似合っていて、腰に巻かれたベルトが彼女のスレンダーさをより強調していた。そして、そんな美しい人を奴隷などにする気はない。と言うか、彼女は最初から彼女への命令は決まっていた。それも彼女にそれを強制する気もないのだ。
「さぁ、貴様の願いを聞こう」
まるで彼女が勝ったような態度だが、負けたのは彼女だ。そして、サクラはその命令以外を言った。
「名前を教えてください」
「……は? そんなことでいいのか」
「私にとっては重要ですよ。あなたみたいな素敵な人の名前を知れば、きっとまた会えるかもしれませんし」
天使は呆れたように口を少し開けていた。凛々しい顔つきが一転して、かわいい感じに見えた。彼女は気を取り直して、サクラと視線を合わせた。
「私は堕天使のフローライト・キャロルだ」
「フローライト。フローって呼んでもいいですか」
「あ、ああ」
天使改め、フローは彼女が思った以上に積極的に来るものだから、少し体を後ろに傾けていた。彼女が退くと、サクラは前に出て、彼女に顔を近づける。
「友達になってくれませんか。私、この町に来たばかりで、友達が少ないんです。だから、あなたも友達になってほしいんです」
「いや、私には必要ない。それに命令は名前を言うことだ。友になる必要はない」
「そうですよ。だから、お願いです。私と友達になってください!」
「……そう言えば、貴様の名前を聞いていないな。だから――」
フローが右上に視線をやって、苦し紛れに言い訳し続けようとしているのを彼女は遮った。
「私は、サクラ・フォーチュンです。仲良くしてくださいね」
「……ああ、もう。私の負けだな。戦いでも敵わなかったが、ここでも押し負けたな」
彼女ははははと笑いながら、彼女の手を握った。
「友として、宜しく頼む。サクラ」
フローにとって、それは友情を結んだ印の握手だった。サクラはその意味を分かっていなかったが、彼女と友達になれたことであまり気にしてない。
その後、ラピスにも挨拶をした。ラピスとフローは友達の友達と言う関係で、まだあまり仲良さそうには見えなかった。しかし、サクラはあまり気にしていない。彼女は二人の相性が悪いとは思っていなかった。
少し話しをした後、フローは部屋を出ていった。また来ると言い残して、颯爽と帰っていった。ラピスも自分の部屋に戻ろうとしたのだが、それをサクラが止めた。
「今日は一緒にいてくれませんか」
ラピスはそれを断ることは出来ない。命令だから、頼みだからと言うのもあったのかもしれないが、彼女の中には彼女のその頼みを聞くのにマイナスな感情はなかった。




