驕る天使 2
男は最初に投げた剣を拾っていた。その剣を片手で持って、翼を持つ女性に近づいていく。彼女は戦斧を既に構えていて、男を迎え撃つ。
「土よ。ソイルウォール」
彼は足元に土の壁を生やし、その勢いを利用して、高く飛んだ。空中にいる間は無防備になるが、魔法を使える冒険者はそれを考慮しない馬鹿はいない。それに土の壁や柱で跳びあがるのは冒険者の常套手段だ。だからこそ、跳びあがったとの隙の対策はいくつもある。しかし、どの対策もする必要はなかった。なぜなら、天使は攻撃をしてこなかったのだ。しかし、跳びあがってしまったため、すぐに地上に戻ることは出来ない。彼は剣ですぐに対応できるように構えたが、剣だけで戦斧を捌けるとは思っていない。魔法を混ぜて戦うしかない。そもそも、盗賊の捕獲の依頼などで、対人戦をすることはよくあるが戦斧なんて取り回しのしにくい武器を使う人はほとんどいないのだ。回避して、大きくなるであろう隙を突くしかない。そう考えたが、そんな隙の多さをカバーできるからこそ、あの武器を使っている可能性についても考えた。どちらかと言えば、その可能性の方が高いだろう。何にしろ、相手の攻撃に当たることは負けを意味するというのは確実だった。彼は冒険者特有の素早い思考で様々な手を考える。その中で、次の行動に繋げられそうなのは、相手の近くに着地しても攻撃せずに、身を屈めて下から攻撃することだった。横に振られたときには回避できるだろうし、縦に振り下ろしてきたときは簡単に回避できるだろう。
彼は先ほどまで、空中での対処を考えていたはずなのに、既に着地後のことを考えていた。それは確実な隙となっていた。天使はそれに気が付いていたわけではない。真っ直ぐで素早いスイングで、跳んできた男の腹に戦斧の棒の部分をぶち当てた。男は綺麗な放物線を描いて、レンガの壁に叩きつけられた。建物には傷はついていないが、男は全身がボロボロだ。見た目には大きな傷は見えないが、その体にかかった衝撃は彼の体の内側から壊していることは間違いなかった。それでも男は立ち上がった。天使がどこに居るのか探している。天使は正面にいた。しかし、その手で持っている武器は戦斧ではなく、鞭のようにしなる何かだった。そのその先端が、彼に向かって伸びているのだが、彼にはそれを認識できない。長いチェーンの先が彼の視界の外から襲いかかる。先端の丸く硬そうな球が相手の肩に直撃して、男の体を地面に叩きつける。男の口から声と鍔が出て、苦しそうに体が痙攣している。まだ、死んでいないというだけだ。瀕死状態。彼はこれ以上何もできないだろうし、彼に何かすれば絶命する。だというのに、天使はその球を再び空中へと振り上げた。男の真上、屋根より少し高い位置で一瞬だけ停止して、後は地面に引かれて落ちていく。
「水よ!」
サクラは目の前の死にそうな男を助けるために、球に水の魔法を当てた。落下する軌道はそれで、男の真横に落ちた。男はその球を見て、魔法が飛んできた方をみた。そこにはサクラが立っていた。男は霞む目と鈍くなる思考の中で、なぜと言う疑問が浮かんだが、それを声に出す前に、気絶した。
「いくら何でもやりすぎですよっ。殺す気ですか」
「悪は滅びて当然だ。悪を許すことは出来ない。死、あるのみ。邪魔をするなら、貴様をも討つ」
「そうですか。命を亡くすことが正義だっていうんなら、私はこの人を守ります。悪いのは人ではないと思います。窮屈な正義こそ、悪ですよ!」
天使は彼女の言葉を聞く気はなく、既に球を自分の元に回収している。そして、サクラが戦闘態勢をと説乗せる前に、球が飛んでくる。剣などの武器を彼女は所持していない。彼女は目の前に岩の壁を作り出すが、それが時間稼ぎだとわかっていた。防ぐことが出来るはずがない。しかし、少しは衝撃を和らげることが出来ると思った。彼女はその球が自分に到達する前に、胸に鍵を差し込んで変身する。
「チェンジ! ミラクルガール! コール ヴァルゴ!」
光が彼女を包む。光の中で、桃色の光が彼女の体にくっついて、それぞれがミラクルガールの服へと変わっていく。光が無くなると、そこに立っていたのは、桃色の可愛らしいドレスを纏った少女がいた。変身してすぐに球が飛んでくるが、彼女はそれを両手で抑えていた。それを砕こうとしたが、さすがにそこまでの力は無かったようで、砕く前に天使の手元に戻っていった。
「ふざけた格好だな。しかし、強いのはわかった。そこの男を殺すのはやめておこう。しかし、自分の力試しをしたくなってしまった。相手をしてもらおう」
彼女は偉そうに、彼女の目を見つめてそう言った。サクラの方が、その天使をふざけた人だと思ったが、腕試しをしたいというのは自分も同じだ。強い人と戦えば、自分の実力も上がるかもしれない。彼女は天使の言うことを承諾しようとしたが、彼女は一つ提案を持ちかける。
「私が勝ったら、言うこと一つ聞いてもらえますか」
「はは、いいだろう。人間の貴様が、天使の私に勝てるとは思えないが」
天使は乾いた笑いを漏らして、いつの間にか球を剣に戻していた。いや、それが原型とは限らない。彼女の超能力はおそらくその変換能力なのかもしれない。サクラはそれを頭に入れつつ、天使との戦闘が始まろうとしていた。




