驕る天使 1
「この場で逃げるほど腰抜けではないようだな。だが、子供をいたぶる奴を私は許しはしない」
翼を持つ女性は、持っていた剣を相手に向けてそう言った。物語の中で言えば、正義感の強い騎士のような雰囲気を持っている。冒険者の男は、様になる剣の構え方をしている。普段から冒険者として戦っているのは嘘ではないようだ。
「先手は貴様にやろう。私から攻撃するのは、卑怯な気がするからな」
彼女はその言葉を本気で言っていた。目の前の男よりも自分の方が強すぎて、戦闘にならないだろうと考えている。彼女は剣だけを使って勝とうとしていた。そのハンデでも、自分の勝ちを確信していた。見た目だけではそれほどまでに実力差が付いていると思っている。
しかし、初心者でもない限り、冒険者が見た目の実力では判断できない。メイトも見た目は熟練冒険者には見えないだろう。サクラも試験官だと言われなければ、そこまで強い人だとは思わなかったはずだ。
「そんなに、痛い目見たきゃ見せてやるよっ」
男が言われた通り、先に動きだす。走り出すと同時に既に構えていた剣を解いて、片手で持っていた。しかし、真っ直ぐ彼女へと向かっていく。男は彼女に剣が当たらないはずの位置で剣を振り上げた。彼女は超能力を使って来るのかと警戒するが、男がしたのは剣を片手で投げただけだった。剣先が真っ直ぐ彼女に向かっていくわけではなく、くるくると回転しながら、剣が飛んでいく。彼女はまさか、武器である剣を投げるとは思わずに、驚いて判断が遅れる。しかし、剣を弾くことは出来た。彼女は剣を上に弾き、それは彼女の後ろへと飛んでいく。街中でも幸い、人は既に避難していたため、人に刺さるなんてことにはならなかった。そこにいる中で、一番被害を受けそうな人物はサクラだろう。彼女は目の前で起きている程度の規模であれば、自分自身で対処できるだろう。
「小細工か。剣が無くては戦えないだろうに」
「そんなことはないんだよ」
男は既に彼女の前に来ていた。
「風よ。ホイールウィンド」
彼女の正面で風が回転して、小規模な竜巻を起こす。少し強い風だが、周りに被害が出るほどではない。彼女の翼に付いている羽が風を受けて揺れているだけで、彼女は足がずれることもない。しかし、風のせいで目を薄目に開けなくてはいけなかった。しかし、敵は正面にいる。彼女は薄目の視界の中にいる男に剣で斬りつけようとする。しかし、その判断は遅すぎた。
「土よ。ロックシュートっ」
彼女の腹に岩の塊がぶつかる。衝撃が抑えきれず、彼女の足が地面から離れ、後ろへとふっとばされる。彼女は空中で翼を開き、姿勢を整える。そのまま、彼女は空中にとどまっている。彼女はなぜか、その場に止まり、男を見下ろしている。そのまま、何かを言おうと口を開いた。しかし、それが言葉になることはない。彼女は戦闘中であるというのにも関わらず、喋りすぎだとサクラも思った。
「火よ。水よ。アイスシュート」
地面にいる彼の周りに、小さな水の球が出現する。それらはすぐに、氷に変化し、彼女に向けてかなりの速度で飛んでいく。氷に当たった場所に氷が引っ付く。それは冷たいが、凍傷を引き起こすようなものではなかった。しかし、翼にその氷が当たることで、翼に氷がついて、徐々に動かなくなる。完全に動かなくなる前に、彼女は地面に降りた。それもゆっくりとだ。さすがに天使と言えど、高いところから落ちれば怪我をするということなのかもしれないが、着地地点をばらすような行為は相手に攻撃してくださいと言っているようなものだ。もちろん、男もそれに漏れずに、攻撃に走る。彼女が着地する前に、地面を蹴って跳んだ。そのまま、空中でくるんと体勢を変えて、足を彼女の方に向ける。そして、彼女が着地するのと同時に、ドロップキックが彼女の右から直撃した。もろに直撃したその攻撃は確実に彼女にダメージを与えていた。彼女はよろめいて、数歩後ろに下がった。
彼女は俯いてしまった。男はあまりのダメージに大人しくなったのかと一瞬だけ考えてしまったが、ここで油断することは出来ない。魔獣も倒したと思ったところから本番だと思った方が良いということはざらにあるのだ。
「貴様を侮っていた。すまない。私も少しは真面目にやらないといけないようだ」
彼女はその場で翼を大きく広げた。翼や体に付いていた氷がはじけ飛ぶ。彼女が持っていたはずの剣が姿を変えて、いつの間にか戦斧になっている。かなり長い得物だ。頭の部分にはノコギリのような刃が付いている。それを両手で持って、構えた。男は相手がそんな悠長なことをしている間に近づいていた。




