初めての依頼 4
二人の目の前には何体ものウルフェンが二人を食い殺すチャンスを狙って目を光らせていた。二人の間には緊張感が静かに満ちていた。特にメイトは彼女を守ろうと考えていた。視界に映っている光景を認識できているなら、人を守りながら戦闘することはかなりの難易度だろう。そもそも、ウルフェンリーダーはメイト一人でも、集中して倒すような相手だ。数人で対応するのが常識。それも相手の実力が自分と同等だと理解していることが必要だ。それが新人と玄人の二人組。しかし、サクラの素の力量が桁外れだということは、メイトも知っている。相性の悪い玄人と組むよりは可能性があるとも考えていた。サクラは一対一であれば、リーダーを倒すことが出来る実力はあるだろう。しかし、一対多と言う状況であれば、慣れがない場合はかなり戦いにくい。
「僕が周りにウルフェンの相手をするから。リーダーをお願いするよ」
メイトはそれだけ彼女に告げると、群れに向かって走り出す。残されたサクラは、正面にいるリーダーを見つめていた。リーダーも彼女をじっと見ていた。相手の視線にあるのは敵意と殺意。自分たちを殺しに来るのだから、自分たちもお前を殺すと言わんばかりの視線だ。サクラは先ほどよりも恐怖心が大きくなっているのを感じていた。しかし、それに負けて動けなくなるということはない。それどころか、いつもより調子がいいと感じるほどだ。それはランナーズハイのような状態だった。彼女は元の世界では運動する方ではないから、その感覚を知ることはなかったが、今の彼女はその状態だ。どこからともなく勝てるという根拠のない自信が溢れている。疲れることもないだろう。そんな自信があった。
彼女はゆっくりと、リーダーへと近づいていく。リーダーに辿り着く前に何体ものウルフェンが盾になるように、前へ出てくるが、今の彼女の敵ではなかった。強力な魔法をその体にぶち込んでいく。一撃とはいかないが、弱ったウルフェンは残らず、メイトが止めを刺していく。メイトもウルフェンを倒しているため、数が多かったウルフェンも徐々に減っていく。しかし、うまくいったのはそこまでだった。サクラがリーダーの前に到着する前に、リーダーが大きな口を開けて、大声で鳴いた。サクラとメイトの肌がピリピリする。そして、体が上手く動かせなくなる。動かなくはないが、思うようには動かない。その状態のまま、ウルフェンが二人に群がっていく。苦戦しながらも、その魔獣たちを何とか捌いていく。サクラもメイトも魔法を使っているのだが、魔法の発動が痺れによって遅れてしまう。徐々に、二人が押されていく。リーダーがひと鳴きしただけなのに、ここまで戦況が傾くのか。リーダーは確実に、ウルフェンとは違う実力を持っているということを痛感した。サクラの中にあった自身は喪失し始めていた。この教訓を次に生かせるなら、次は逃げようとも考えていた。
「まだ、負けてない。諦めるのは死んでからでいい。そんな言葉があるんだ。生きてるうちは意地汚く足掻くべきだよ」
彼は少しだけ息が上がっていたが、その間にも落ちついて、彼女を勇気づける。しかし、その言葉をすぐに受け入れて頑張れるという状況ではないのだ。しかし、死ぬつもりはないという覚悟を思い出したのは事実。ここで死ぬなんてことは出来ない。彼女は今まで無意識に他の被害を考えて使用できなかった、広範囲に影響を与えるような魔法を使うことにした。いくら発動が遅くても、この辺りを巻き込めるなら、ウルフェンなど相手ではなくなるだろう。一体ずつ対処しようと思うから、力押しに負けるのだ。彼女は魔法をイメージし始めるのと同時に、体にあった痺れも治ってきた。
「エクス、プロ―ジョンッ!」
ファンタジーの物語では欲出てくる強力な魔法と言えば、この魔法。そんな印象がある絵来るプロ―ジョンを彼女は唱えた。周りの魔気を吸収し、全てを引き付ける。その収縮が一瞬だけ止まり、次の瞬間には大きな熱波が辺りにばら撒かれた。強い光と爆音と共に、そこかしこを焼け焦がす熱がウルフェンだけでなく、燃やす。衝撃波が、燃えた木々を吹き飛ばし、森の中に広場が出来上がった。地面は焦げ付き、彼女たちを囲んでいたウルフェンたちの毛皮が焦げていた。立っているウルフェンは一体もいない。サクラもその爆発に巻き込まれそうになっていたが、メイトが彼女を助けた。分厚い土の壁を作りだして、二人だけをその爆発から守っていた。
「さすがにいきなりは驚いたよ。まぁ、守れてよかった」
メイトが安堵の吐息を漏らしているが、戦いは終わっていない。ウルフェンの死体がいように多く山になっている場所があった。その山が揺れ、崩れた。その中にはまだ動いている魔獣がいた。それはリーダーだ。ウルフェンたちが、リーダーを体を張って守ったのだろう。リーダーはあの爆発でも傷一つ、焦げ一つ付いていない。
「さすがは、リーダー。でも、これを倒せば、私たちの勝ち、ですよね」
彼女の瞳はキラキラとしていたが、連戦に強力な魔法を使ったため、体力も魔気もそこまで残っていない。満身創痍と言っていい状態だ。それでも、彼女は負ける未来を見ていなかった。




