初めての依頼 3
サクラに魔獣が飛び掛かる。一匹躱しても、他の魔獣が攻撃してくる。彼女は何とか攻撃を凌いでいたが、四匹同時に相手をするには注意力が全く足りない。魔法を使おうにも、詠唱のために声を出すこと自体が、隙になってしまい、声が出せない。できれば返信せずに倒したいと思っていたが、彼女はポケットに手を入れて、鍵を取り出した。魔獣の攻撃をかいくぐりながら、胸に鍵を指して捻った。
「チェンジ! ミラクルガール! コール ヴァルゴ」
彼女はそう叫ぶと、彼女を光が包む。その光に驚いて、魔獣たちは動きを止め、警戒しながら彼女を取り囲むように移動する。その間に、光の中で彼女は手足、胴に光が纏わりついて、着ている服が変化する。光が無くなるとそこには桃色のひらひらした服を着た少女がいた。魔獣たちには光が無くなり、彼女が姿を現すと魔獣たちは彼女に飛び掛かる。同時に飛び掛かってきた魔獣を彼女は身を屈めて、自身の周りに土壁を勢いよく地面から生やすことで、相手の顎を撃つ。魔獣たちはそれぞれ一回転して、地面に降り立ったが、その内の一体、彼女が先制攻撃を当てた魔獣はその場に着地せずに地面に転がり動かなくなった。彼女は土壁を消滅させて、周りの魔獣がどこに居るかをみた。それぞれが離れているため、一体ずつ相手できそうだと考え、地面を蹴り、一体に近づいていく。跳んだ勢いのまま、拳を顔に叩き込む。前に突き出た口がぐしゃりと変形するような感触が手に伝わり、不快感を覚えるが、それで攻撃を止めるわけにはいかない。戦闘を始めてしまった以上、命のやり取りとなった。彼女もそれは理解しているつもりだった。拳で殴り飛ばした後は、魔法を放つ。魔獣の足元から、鋭く尖った岩が突き出す。魔獣はそれを回避しようとしたものの、宙にいてはうまく身動きも取れない。そのままサクラの魔法によって、体を貫かれ絶命した。その間に、次の魔獣が彼女の背後から飛び掛かる。
「飛び掛かるだけしかできないわけでもないと思うんですけど!」
彼女は土の壁を地面から生やして、飛び掛かってくる魔獣と宙へと放った。真上に飛ばされた魔獣は何もできない。彼女は宙に浮く魔獣を狙って、長い水の槍を作り出し、それを魔獣に飛ばした。それは見事、相手の胴を撃ち貫いた。死体は地面に落ちて、地面に血と肉片を跳ねさせた。最後の魔獣はすぐには飛び掛かって来なかった。彼女の強さを警戒しているようで、ゆっくりと横に動きながら、彼女の隙を伺っているようだった。サクラは相手の行動を待つことなく、相手に向かって一歩踏み出した。その瞬間、最後の一匹が大きな声で鳴いた。高い音と低い音が交じり合ったような音の衝撃波が彼女にも当たる。今度は明確に体が痺れて、思うようには動かなくなる。彼女は少し焦る。魔獣が素早く近づいてくるのが視界に入っているのだ。いくら変身して強化されていようとも、攻撃されて無傷と言うわけにはいかないだろう。しかし、魔獣が到達する前に体を動かせる程度には麻痺が治まる。サクラは目の前まで来ている魔獣に蹴りを入れる。ガチッッというような音が相手の口からした。顎を蹴られ、ふらつく魔獣に拳を上から叩きつけた。魔獣はそれでも起き上がろうとしたため、彼女はその胴を思い切り蹴り飛ばした。巨体が、ゴロゴロと転がって、ついには動かなくなった。四匹すべてを討伐した。彼女は緊張の連続から解放されたため、体から力が抜けた。大きく、一呼吸息を吐きだした。
冒険者である以上、報告までが仕事だ。討伐出来ればあとは帰るだけと言うような、楽な仕事でもない。依頼場所に行くまで、報告を終えるまでは緊張を解いてはいけないと言われている。その理由は明白で、何が起こるかわからないからだ。そして、ウルフェンは二度も鳴いた。それも森に広がるような大きさの声で、だ。
サクラの近くの草むらががさがさと音を立てる。周囲に目を向ければ、そこには沢山のウルフェンがいた。そのうちの一匹は周りのものより一回り程、体が大きい。
「サクラ、逃げるぞ。それが時間を稼ぐから、早く逃げるんだ」
いきなり彼女の腕を引っ張ったのはメイトだった。彼は真剣な瞳で、彼女に詰め寄る。いきなりすぎて彼女は状況を理解できていない。しかし、彼が焦るのも無理はない。彼女の視界にも入っていた一回りだけ大きなウルフェンはウルフェンリーダーと呼ばれる特殊な魔獣だ。名前の通り、ウルフェンを統率するウルフェンだ。おそらくこの森のウルフェンを従えている。そして、リーダーと言うだけあって、他のウルフェンより能力が高いのだ。そして、多少ではあるが学習することもある。そうなれば、他のウルフェンとは一線を画す強さだと考えた方が良いのだが、サクラはそんなことは知らない。だから、いきなり逃げろと言われてもそれに従うつもりはなかった。それどころか、そのリーダーとやりあうつもりであった。彼女の瞳には、勝つという固い意志があった。メイトはその目を見て、どうあっても止められないと思った。サクラのことは知らないが、似たような目を見たことがあるのだ。そして、その瞳を持つ者の意志はどんな障害も意味を成さない。メイトは彼女を逃がすのをやめて、この場で協力することを無言で選んだ。
ウルフェン数十匹とリーダーとの戦いだ。二人は生き残る覚悟を決めた。




