初めての依頼 2
「まずは探索。森の中は常に危険だから、警戒を解くことの無いようにするんだ。魔獣はどこからでも出てくる。群れていない生き物には遠慮なく襲い掛かってくる。反対に、自分たちより群れの数が多い時はどれだけ弱い生物でも襲ってはこない。だから、町の中は基本的には魔獣は入って来ないんだ」
それから、彼女はメイトの言う通りに周りに魔獣の痕跡がないかを調べたり、近くに魔獣がいるかどうかの判断の仕方を教えてもらったりした。この森の中には多くの魔獣がいるということがわかった。しかし、魔獣本体にはあまり遭遇しない。それはメイトがそう言う方向に誘導しているからなのだが、彼女はそれに気が付く気配すらない。どちらかと言えば、彼女は早く魔獣をみたいと思っていた。魔獣との戦闘を経験して、ようやく自分や周りの腕前を判断する基準が出来ると考えていた。メイトを基準に考えることは出来ない。試験官をできるという実力である以上、他の冒険者とは格が違うはずなのだ。それに、こういった場所での戦闘はしたことがない。その経験もしておきたいと考えていた。この世界で暮らすにはこういった仕事は多いだろう。
メイトと二人、森の中を緊張感を持ちながら歩いていると、近くで何かの鳴き声が聞こえた。見つかったかと彼女は内心焦るが、メイトが彼女の前に手を出して進むのを止めた。彼は辺りを観察する。鳴き声が聞こえたからと言って見つかったと考えるのは早計過ぎるのだ。不意打ちを受けないことが第一。魔獣だろうが、生物だろうが、攻撃を受けなければ、死ぬことはない。反対に不意打ちであれば、相手の攻撃に当たる可能性はかなり高くなる。攻撃を受けるということはそれだけ死が近づく可能性があるということだ。
「大丈夫だ。近くには何もいないだろう。しかし、警戒は続けてくれ」
最初から警戒してくれとは言われていたが、サクラの元いた世界は安全そのものだった。魔獣なんてものは出てこないし、敵と言う敵はいない。暴力よりまずは口で戦うと言った方が多いことだろう。そんな中、暴力に対して警戒しろと言われても警戒の仕方もわからない。とりあえず、辺りに変化がないかをみたり、聞いたりしているが、それが正解なのかもわからない。
「ストップ。この先にいる。俺は手伝わないから、自分でやってみて。危なかったら助けに入るから」
彼が指した先には狼のような魔獣が四匹ほどいた。四匹は辺りを見回したり、地面に伏せていたりと自由にしている。未だ、自分たちには気が付いていない。サクラは少なくとも一匹は不意打ちで倒したいと考えていた。そのために魔法を使おうと思った。火の魔法は森ごと燃やす可能性がある。それ以外の魔法にしたいが、風の魔法や土の魔法は周辺の樹を斬り倒してしまうかもしれない。木々が無くなるということは近くに他の魔獣がいる場合に気づかれるかもしれない。周辺に影響が出にくいのは土の魔法と水の魔法だろうか。どちらを使うにしても、威力を高めたり、魔法を大きくしたりすれば、周りに影響を与えてしまうという点は変わらない。サクラはそこから動く前にメイトを見た。
「行きます」
少し緊張した面持ちで、彼女は魔獣に気かづいていく。
「水よ。ウォーターランス」
彼女の掌の上で、先の尖った形の水が作り出される。水の槍とでも言えそうなそれを地面に伏せている魔獣を狙って撃った。真っ直ぐに、素早く狙い通りに着弾し、伏せていた魔獣は地面を数回転がった。その様子を見届けることもなく、ウルフェンたちは攻撃が来た方向を見ていた。そして、桃色の髪は森の中では目立つ。魔獣たちはすぐにサクラを見つけてしまった。サクラもそれを認識する。彼女が魔法を当てた魔獣も立ち上がり、彼女を見た。
対峙してようやく、討伐対象の全体像が見えた。灰色の体毛で黄色い瞳の狼モドキ。体高は五メートルほどで、全長は七メートル。かなり大きく、筋肉質な足には凶悪そうな爪を着けている。何より、唸るような鳴き声を上げている口から覗く鋭い牙は、噛みつかれるのを想像しただけで恐怖するだろう。自分が魔法も使えない人間ならビビッて動けなくなっていた。しかし、この世界では抵抗する力がある。彼女はビビるだけではなく、戦うことを決意していた。メイトがそこにいるというのは既に頭の中にはなかった。
魔獣たちはゆっくりと、彼女の元に寄ってくる。森の木々が邪魔で、視界の中に全ての魔獣を入れることは出来ない。後ろは常に警戒しなくてはいけないと思いつつ、彼女もウルフェンに近づいていく。先頭のウルフェンが足を止めて、彼女をじっと見たかと思えば、顔を上に持ち上げた。それから、その魔獣は大きな声で泣いた。森中に広がりそうなほどの大声だ。近くにいた彼女の耳を打ち、肌が痺れるような感覚が彼女を襲う。恐怖心が大きくなるが、それを精神力で無理やり押し込める。痺れが少し残っているが、彼女は魔獣を倒すために動き出す。




