星座の力-オフィウクス- 3
無傷になった彼に光る矢が何本が飛んでいく。彼はそれを手で叩き落した。地面に落ちると、矢は消失した。だが、まだまだ彼に向かって矢が飛んでいく。それを全て手や足で受け流したり、叩き落したりしながら防御していく。彼が動かずに防御し得ている間に、ラピスが走っていた。走りながら矢を適当な場所に放つ。バラバラに発射された矢は、途中でオフィウクスに先端を向けた軌道を取るため、結果としてタイミングを取りにくい時間差を作っていた。矢を放ちながら、ラピスはオフィウクスに接近した。そして、矢を放つを止めたときには、彼の目の前だ。その場で弓を弾いて光の矢を彼の眼前に向ける。だが、矢が放たれることはなかった。彼女は弓の下の部分を下にスライドさせて、中に仕込まれている刃を出して、目にもとまらぬ早業で、彼を斬りつけようとしていた。だが、それは適わない。目にも見えるはずがないのに、彼女の攻撃は甲羅で防がれたのだ。
「速ければいいという物でもないのです。予想できる動きに対応するのは難しくありませんから。それでも、矢と言うのは厄介ですね。先ほどもそうでしたが」
「よく喋りますね。実はそこまで余裕がないことの証拠ではありませんか?」
「そうかもしれませんねぇ。――時間稼ぎのつもりですか?」
彼に向かって、いくつもの攻撃が向かっていく。ラピスの火炎放射の魔法にヘマタイトの大量の岩を出現させる土の魔法。オブの不可視の拳。フローはランスの先端を彼に向けて突っ込む。全方位からの攻撃。逃げるのは難しいだろう。だが、それは彼がそこら辺の一般人だったらの話である。彼は誰にも渡さなかった星座の力を使う。それこそ、彼の名前そのものだ。
彼の背中には試験管の中間辺りに波線を入れたようなマークが浮かびあがっていた。そのマークはサクラも見たことはない。それもそのはずで、それこそがオフィウクス、へびつかい座のマークである。その瞬間、彼の動きがおかしくなる。一番近くにいるラピスに蹴りを放つと、その場から動く。フローに近づいて、ランスを軽々と避けると、そのままフローのふくらはぎの辺りに蹴りを入れて、それとほぼ同時に腹部に衝撃が与えられた。彼女の背後にいたサクラが次のターゲットだ。彼女は彼の動きを認識はしていた。だが、完全に読み負けていた。彼女の動きの次の動きを的確に読み、それに対応する自分に有利になるに動く。サクラはそれに対応しようとするが、それでも追いつくことなどできはしない。最後に思い切りボディーブローを食らって、彼女は膝を付いてしまった。それをチャンスとばかりに、彼女は低くなった体に蹴りを入れられる。横に転がり、すぐには立ち上がれない。次に攻撃されたヘマタイトは、彼の動きを認識することもできずに、いつの間にか腹部に立っていられない程の衝撃を受けて、倒れこむ。倒れたまま顔を上げることでようやく何らかの攻撃を受けたとわかった。その攻撃が蹴りかパンチかもわからない。彼女がオフィウクスを見上げた時には、既に彼はオブを狙って動き出していたのだ。オブは相手の攻撃に対して優位な動きをしようとは考えずに、冷静な思考の中で相手の動きにぴったり合わせて防御していく。だが、防御と言っても限界がある。彼の攻撃を受け続けている腕も足も、ダメージが蓄積して、動かなくなっていく。もはや、それは自身の死が近づいてきているのを知らせているかのようで、腕と足が着かれれば疲れるほど、体の底から冷たい物が這い上がってくる。それに抗いながらも結局はその死の予感に負ける前に、体が限界を迎えて、彼の思い切り突き出した蹴りを防御しきれずに後ろにふっとばされてしまった。
「久しぶりに使いましたが……。やはり、少し疲れますね、本気を出してしまうと」
彼は地面に倒れている五人を視界に収めていた。
「これは試練の一つでしょう。この程度で最後の試練などとは言いませんよね。さぁ、立ち上がり、私の前に立ちふさがる壁になりなさい!」
彼の言葉に返事が出来るほど余裕のある者などいるはずもない。誰も立ち上がろうとしない光景を見て、彼はがっかりしていた。ミラクルガールでもこの程度なのかと。
「ふぅ。少し期待しすぎましたかね。それとも、私が冷静さを欠いていたのかもしれません。正常な判断でできていない状態と言うのは、宜しくはありませんね」
彼がこうも独り言を話しているのは、ミラクルガールが立ち上がるかもしれないという期待をまだ捨てきれていないからだ。彼女たちが回復する時間を自ら稼いでいる。意識も戻れば、立ち上がるだろうし、一人が立ち上がれば、他のものを助けて、再び五対の構図になるだろう。最後の仕上げの前の試練は、壁は、難しいほど、大きいほど達成感は大きいのだ。そして、その達成感は彼の計画の中でも重要なものの一つでもある。その達成感を味わうために人は更に努力するようになるだろうから。