再会には水を差す 5
鎖が彼女の周りで乱舞しているところに、サクラは再び風の刃を放つ。 だが、先ほどと同じようにその魔法は彼に当たらずに、彼の横を素通りしていた。それもそのはずで、彼は先ほどから目には見えずとも魔法が来ていることは感じ取ることが出来るわけで、その魔法に対して、風の魔気で流れを作り、彼女の魔法を受け流しているのだ。物理的な攻撃はその程度の風の流れでは軌道を変えることはほとんどできないが、風の魔法ならば話は変わる。風の魔法と言うだけあって、風の魔気の流れの影響を受けやすい。風無くとも、魔気の流れの影響を受けやすいのだ。流れやすい風の魔気を使えば、簡単に風の魔法の軌道を変えられるというわけだ。
その原理はこの世界で生活している人ならば理解していることだが、彼女はこの世界出身ではない。魔法の特性を少しは理解しているが、そう言った細かいことは全く理解していない。それでも、風の魔法は効果がないことは理解しているようだ。彼女は透明な刃を出現させるのを止めた。彼女が攻めあぐねているのを彼は視界の隅に置いていた。今、自分に攻撃を当てられそうなのは、サクラではなくフローだ。今も、彼女の刃のせいで、あまり自由には動けない。いや、動こうと思えば、いくらでも動くことは出来るのだ。ただ、そのために力を消耗するのは得策ではないと考えているだけである。
この後に、少なくとも残り三人のミラクルガールがここに来るはずで、その前に、魔法や超能力を使い、自身の力を消耗した状態では、ミラクルガール五人を相手にするのは難しいだろう。いくら、サクラとフローが力を消耗した状態であろうとも、全快状態のミラクルガール三人を相手にするとなると、できる限り消耗はしたくないかった。
サクラとフロー、オフィウクスが戦闘をしている間に、メイトは既に町についていた。星座の力が無くなってしまった彼は長時間、コピー空間にいることは出来なくなっており、既に現実世界の人通りの多い道を、人の間を縫って走っていた。ギルドまではあと少しだ。彼がギルドに近づくと、タイミングよく、オブとラピスがギルドから出てきた。一人足りないが、まだギルドの中にいるのだろうかと考えながらも、先に二人に声を掛けた。
「オブシディアン、ラピスッ!」
彼は息を切らせながらも、走って二人に近づいていく。彼が息を切らせているのは珍しく、二人は足を止めていた。二人が止まってくれたのを確認していたが、彼は息も整えずに、二人に事情を説明した。文は途切れ途切れだが、意味は十分に通じるようで、二人は驚いた顔をした後に、すぐにその表情には焦りが出ていた。
「どこだ。どこに行けばいいっ?」
オブが彼の肩を掴んで、威圧しながら彼に問い詰める。彼はそれに圧されることもなく、答えた。その瞬間に二人は走り出そうとしていた。だが、二人だけで加勢するより、残りの一人も一緒に行ってほしいと伝えると、オブは頭をガシガシと掻いて、彼に注げる。
「ヘマタイトなら、ウェットブルーのマスターが連れて行った。今、どこで何してんのかは知らねぇんだ。わりぃんだが、メイト、お前が連れてきてくれ。ラピス、急いで加勢に行くぞ」
ラピスは頷く時間も惜しいと言った様子で、彼女にそう言われるまでもなく、既に走り始めている。オブも彼女の後を合うように、走って追った。
「カイト、どういうつもりだ。ただで力を渡すのは、ってことか? まずはウェットブルーに行くか」
彼は疲れと、ヘマタイトがここにいないという事実に焦っていた頭を整理するように、考えたことを口に出した。そうすることで、とりあえず、自分の次に行くべき場所を決めた。彼は完全に息も整っていない状態で、ウェットブルーに向けて走り出した。
メイトがウェットブルーの前に来ると、店の中では暢気にお喋りをしながら、皿とコップを洗っているカイトと、彼の前のカウンター席で、サンドイッチを食べているヘマタイトを見つけた。メイトが中に入るより先にカイトがメイトに気が付いた。彼の様子が何かおかしいことに気が付いて、カイトは彼を中に入れるために
ドアの前まで行って扉を開けた。
「メイト、どうかしたのか?」
「オフィウクスが来た。サクラたちと交戦してるんだ。だから、ミラクルガールを呼びに来たんだよ」
「なんだって? ちょ、ちょっと待ってくれ、もう戦っているって? 本当に?」
「じゃなきゃ、ここまで焦ってない。ヘマタイト、すぐに草原の方に行ってくれ。サクラたちに加勢してくれっ」
カイトの後ろまで来ていたヘマタイトにそう声を掛ける。カイトは彼女の方を見て、心配そうな顔を見せていた。彼女は今まで、自分と戦って消耗しているはずなのだ。それでも、オフィウクスと戦わせるというのか。彼女を戦わせて大丈夫なのか。彼の頭には後悔が沸きあがる。だが、ヘマタイトはその顔を見て、笑った。
「だ、大丈夫ですよ。戻ってきたら、またサンドイッチ作ってくれますか?」
カイトはその言葉に、戸惑いながら頷いた。




