再会には水を差す 4
フローのランスはオフィウクスの手前で止まった。彼の目の前には赤茶色の甲羅のような物が出現していた。そして、甲羅の後ろ、オフィウクス側にはかに座のマークが出現していてた。それはキャンサーの紋章の能力と言うことだろう。彼女のランスすら止められるというのは予想外だったが、彼女はすぐに機転を利かせる。ランスが止められた時点で、ランスを分解してハンマーに変えた。固いものにはとりあえず、ハンマーのような衝撃をぶつけることを覚えた彼女はその甲羅にもハンマーをぶつけた。
甲羅はハンマーをぶつけられると、フローの耳を壊すような衝撃音が辺りに広がった。そして、甲羅にはひびが入っていた。しかし、フローはそれを確認することは出来ていない。それもそのはずで、目の前で大音量の衝撃音が鳴ったのだ。目よりも耳を抑えて、後退していた。
「耳が、聞こえない」
フローはそう呟いて、ハンマーを分解して手元に粘土の球のような物に再構築していた。彼女はハンマーの攻撃も防がれていると考えているため、ハンマーで再び攻撃しようとは思えない。あの甲羅をどうにかしないと、自身の攻撃が通らない。彼女はあの甲羅を攻略することを考えていた。
「ぼうっと見ている場合ではなかったです。どうにか援護しなければ、いけませんね」
サクラは地上から二人の戦いの様子をみていた。だが、それもフローが甲羅を叩いたときに起きた大音量ではっとする。あの衝撃の音を間近で聞いたのだ。耳は聞こえていないかもしれない。耳をおさえて、彼女の手元にあったハンマーは既になくなっていた。
「この位置からなら、魔法でしょうか」
彼女は風の魔気をしようしていた。彼女の周りに風が吹く。彼女の髪を優しく揺らしているが、それは彼女の周りに風の魔気が集まっているということであった。そして、彼女の周りには透明な風の刃がいくつも出現していた。彼女はそれをオフィウクスに向けて飛ばした。続けて、更に風の魔気を圧縮していく。そこにあるのはただの風の魔法ではなくなっていた。短い青い光の線がいくつか現れている。風の魔気を圧縮していき、彼女の周りには電気が生み出されていた。
「続けて……」
彼女はその電気を固めて、前方に放つ。風より速い速度で動くため、それを制御するのは難しい。サクラでも放つ方向を決められる程度の操作しかできず、その先にどう動くかを操作することは出来ないのだ。だが、その速度についてくる生物はそうそういやしないだろう。この世界の電気の性質は彼女は知らないが、この世界の電気は風の魔気に引き付けられるのだ。そして、生物には風の魔気が流れている。そのため、元の世界のように電機は生物に集まりやすい。そして、ちょうど今はフローが彼から離れているため、彼女に電気が向かうことはない。
見えない風の刃がオフィウクスに迫る。彼は刃が見えていないのか、回避しようとはしていない。だが、彼にあたる前に全ての刃が軌道を変えて、彼を避けるように彼の横を通りすぎていく。そして、それに追従するように飛んでいった雷も彼にはあたらなかった。それも彼の横を通りすぎたのだ。そして、彼はその雷が通り過ぎた後には、サクラの方を見ていた。次の攻撃を待っているのか、彼女のことを侮っているのかわからないが、その表情には余裕があった。
「お返しと言うわけではありませんが、こんな魔法はどうでしょう」
彼は魔法名を唱えるわけでもなかったが、彼の周りには火の魔気と水の魔気が放出されていた。そして、それらは彼の周りで氷の棘を作り出す。火の魔気が温度を下げて、水の魔気が氷の塊となる。彼の周りに氷柱ができ、それらはサクラに向けて一斉に発射された。彼女が走ってその場から移動すると、それに追従するように氷柱は起動を変える。彼女が通った後には氷柱が突き刺さり、魔法であるそれはすぐに消失する。しかし、それがそこにあった草は凍えて、しおれていく。
彼がサクラをおちょくるように攻撃している間に、フローの耳が回復した。彼女は刃三枚を鎖で繋ぎ、更にそれを長い鎖で繋いだ武器を作り出した。その長い鎖を振り回して、彼に近づいていく。その武器のリーチに入ると彼女は刃の方を、遠心力を使って投げた。だが、オフィウクスはそれを簡単に避ける。だが、それで終わるわけではない。彼女は更に鎖を引っ張ったり、振り回したりしながら、彼の周りで刃を踊らせた。だが、彼はその程度の攻撃は簡単に避けられてしまう。彼からすれば、何のためにその攻撃をしているのかわからない。だが、彼はその鎖に触れることはしない。レオの記憶の中に、彼女が鎖を操り、戦っていたものがある。その鎖を掴むことで何らかの罠を仕掛けてくる可能性がないとは言えないのだ。