初めての依頼 1
冒険者カードは顔写真のない免許証みたいなものだった。素材だけはプラスチックではなく、軽い何かの金属だ。そのカードには既に紐が通してあり、首から下げられるようになっていた。他の冒険者のカードには紐はついていない。紐ではなくチェーンが付いていて、ベルトなどについているのが見えた。しかし、彼女の服にはチェーンを着ける場所もない。そもそも、冒険者の格好ではないのだ。シックファッションで作ってもらった服で着ているのだから、当たり前だろう。それを考慮したのか、そもそも彼女が子供だからなのか。とにかく、首から下げられるようになるのはありがたい。
「あの、メイトさん。このまま依頼を受けたいのですが、付き合ってもらえますか」
「ああ、うん。わかった」
彼は暇ではないのだが、彼女が一人前になれば、このギルドの仕事も分担できるようになるかもしれない。特に試験官並みの実力を持ったものはこの町には少ないのだ。彼を含めて四人だった。うち一人はいつの間にかギルドに来なくなったので、やめたのではと噂されている。そのため、メイトとしても実力者が欲しいのだ。
依頼掲示板を見る。そこにはいくつもの紙が貼ってあり、それぞれに依頼が書かれていた。冒険者になりたての場合は基本的に料理店の材料採取の依頼から始めるのが基本だ。草木は倒す必要もないし、魔獣と戦う必要はない。遭遇しても逃げればいいだけの話だ。しかし、メイトは彼女にそういった仕事を選ぶつもりはなかった。そして、それはサクラも一緒だ。採取の仕事よりも魔獣討伐の仕事の方が冒険者っぽいという、それだけの理由だ。
「これなんてどうかな」
彼の取った紙には、ウルフェンの討伐と書かれた紙だった。ウルウェン十匹の討伐が最低条件だ。それ以上は、討伐数に応じて報酬が上昇する。もし、ウルウェンが誰でも狩れるような魔獣なら、こんなにおいしい依頼はない。しかし、ギルド内にこれだけの人がいるのに、残っているというのはそれだけの依頼と言うわけである。しかし、メイトはこの依頼は彼女の実力的には何の問題もないと考えていた。才能だけで言えば、この程度の魔獣は簡単に狩れるだろうと予想していた。サクラは何も考えず、その依頼を受けることにした。受付にそれを持っていくと、ナチュレがメイトを睨んでいた。しかし、メイトは一つ頷くだけだった。彼女は仕方ないと言ったような仕草で依頼を受け付けた。サクラのカードに棒状の何かを触れさせた。サクラにはそれが判子に見えたが、触れたカードには何もついていない。
「あれは、依頼の記録をしたんだよ。このカードが他の町でも使えないといけないから」
冒険者カードは他の町のギルドでも利用することが出来るのだ。虚偽の申告をしてもお見通しと言うわけだ。サクラはこのカードのどこに記録されているのか疑問に思ったが、魔法の世界でそんなことを気にしても仕方ないと思った。こうして、二人は依頼に出ることにした。
彼らがギルドから出ていったあと、新人のサクラが魔獣討伐の依頼を受けたことに驚いている物や、イラついているものがいた。そして、それを面白がるものは大抵こういうことをやりだす。
「なぁ、あの新人がこの依頼こなせるかどうか、賭けないか。依頼自体は成功かもしれないが、メイトさんがやったらな、新人の失敗だ」
「いいね。じゃ、俺は出来ない方に賭けるぜ。どうせ、メイトさんに頼りきりになるだろうな」
「俺も乗らせろよ。まぁ、できない方に賭けるけど」
その後、そこにいた冒険者の全員が失敗の方に賭けていた。冒険者たちはこれじゃ賭けにならねぇとぼやいていたが、そこに一人の女性が来た。
「面白れぇことしてるな。んじゃ、オレは成功に賭けるぜ?」
その女性は金髪で釣り目、大きな体に力強さそうな見た目。
「オブシディアン。いつもはお前が賭ける方が勝つけどな、今日こそ無理だぜ。賭けの内容を教えてやる。新人が魔獣討伐の依頼を自らの力でこなせるかどうかだ。同行者はメイトだ。どうだ、失敗するだろ?」
「いや、オレは変えねぇ。新人って、もしかして、そこですれ違った桃色髪の奴か。なら、なおさら変えるつもりはねぇぜ。それに、オレ一人で勝てば、酒代には困らなさそうだしな。はっはっは」
彼女はひとしきり笑った後、そこにいる全員に視線を送った。睨んでいるわけではないはずなのに、彼女に言葉を返す者はいなかった。
ウルウェン討伐の依頼はマギインの周辺の森の中で行われることになった。と言うか、そこしかないのだ。基本的にウルフェンは獲物が居なければ、森から出ることはないのだ。彼女の初めての依頼が始まろうとしていた




