再会には水を差す 1
フローを見つけたサクラは更に急いで、彼女に近づいていく。メイトは既に彼女についていけなくなり、自分のペースで彼女の後を追っていく。彼女が更に近づいていくと、フローが戦っているのが見えた。彼女が戦っているのは、魔獣ではなかった。大きな体を持つ獣人だ。その様子を見ただけでは、彼がフロート戦う理由があるようにはみえなかった。そもそも、彼には戦意を感じない。戦闘中でも、彼は既に負けているだろう。
フローもその状態の相手に追撃することもなく、彼女はそのまま地上に戻っていく。彼と何か会話しているようで、戦う意志は二人ともがないようだ。そうして、ようやくサクラはフローのところに辿り着いた。
「フローッ! 久しぶりですっ!」
サクラが声を上げると、その声に反応してフローが声の聞こえている方向に視線を向けた。そして、フローも近づいてくるサクラに気が付いた。そして、フローもサクラの方へと走り出す。彼女の近くにレオがいるというのも頭から抜けている。走ってくるサクラを彼女は両腕を広げて、迎え入れる。かなりの勢いでサクラはフローに突っ込んだ。その勢いを支えきれなくて、彼女は後ろに倒れてしまった。
「フロー、お久しぶりです。元気そうでよかったです」
「ああ、サクラも変わらないみたいで良かった。それといきなりいなくなってしまって、すまなかった」
「それはもういいんです。無事に戻ってきてくれただけで、十分ですよ」
サクラはフローの上に乗ったまま、そこから見下ろして、彼女に笑顔を見せていた。その無邪気で可愛い笑顔を見ていると、フローは視線を逸らして、頬を赤くして、照れていた。
サクラは彼女の上からどけて、彼女の横に立った。フローも彼女が避けたのを確認して、立ち上がる。何も変わっていないように見えて、サクラの顔つきが少しだけ、大人になっているような気がした。サクラは明らかに、サクラの持つ雰囲気が変わっているのがわかっていた。体も顔を変わっていないが、この町から離れている間に、彼女が強くなるために色々してきたのだとわかった。
「サクラ、すまないが、空白の鍵は持っていないか?」
「あ、先ほど使ってしまいました。残りはオブ姉とヘマタイトに渡してしまったので、手元にはありませんね。と言うか、今戦っていたのはまさか、ゾディアックシグナルのメンバーなんですか?」
「ああ、あれはレオだ。元はもっと強かったんだが、この戦いではその強さもなかったな」
サクラは聞いている限りでは、彼を放置していても問題ないと思った。今から、オブかヘマタイトのところに行って、鍵を貰ってきても大丈夫だろうと思えるほどの彼からは敵意を感じない。フローが言う前は強かったというのも、感じなほどに無害と思えるだろう。彼はそこに立ち尽くしてしまって、何もしていないのだ。ぼうっとそこに立っているだけだった。
「レオ、大丈夫ですか?」
そこに落ち着いた一つの声が聞こえてきた。サクラもフローもその声がする方向に視線を向ける。そこにいたのはオフィウクスだった。しかし、その服装がいつものものとは全くちがった。村人と狩人の格好を合わせたようなものではなく、白を基調とする服装で何重にも布を重ね合わせているような服装だ。
彼の頭には、赤い宝石が八つ円状に均等につけられている王冠が乗っており、首元も隠すのは白いマフラーのように見えるが、それは首回りが広くとられた襟で、肩には三枚の布が重なっていて、そこから、真っ白な袖が彼の腕を包んでいた。彼の靴は白いくるぶしの上ほどまで包んでいるブーツだ。それを隠すように足の辺りまでスカート部分が伸びている。スカートの中はしっかりパンツ上になっている。そして、彼の正面には白い大きな垂れ幕のような物が下がっていた。その先端は剣の先のようになっていて。その幕の足の方には赤い十二の星が無造作に並んでいて、幕の上には仲間外れのように黄色の一つの星がついている。
「オフィウクス様。私はもう、この証を持つ資格がなかったようです。返します」
「いいのですか。貴方には貴方の理想があるのではないのですか。その力があれば、多少は力になれると思ったのですが」
「きっと、俺は、この力が無くとも、誰にも負けないくらいに強くならないとダメなんです。それまで、この力を受け取っては行けなかった。センスだけで戦い抜けるほど、戦いは甘くなかったということです。少なくとも、慢心しないくらいには強くならないと」
「……そうですか。わかりました。そこまで決めているのなら、その力、返していただきましょうか」
彼がそう言うと、レオから光が抜けて、彼に取り込まれた。レオは全身から力が抜けた。何か重い荷物を地面に降ろしたように体が軽かった。
「ありがとうございました」
レオはそれだけ言うと、その場から消えて、森の中に入っていった。