天使の帰還と獅子の猛攻 6
フローはレオを空へと連れ出し、かなりの高度まで来た。彼女はそこで勢いを殺し、彼をランスから離す。彼を支える物が無くなった。彼は地面に引かれて、落ちていく。フローは自らの翼を使い、落ちる彼の横に並んで飛んでいる。
「何を――」
彼の言葉を最後まで聞かず、彼女は握っているランスを彼にぶつけようとしている。先端が鋭く尖っているランスだが、その武器は頑丈であるため、何も突き差すだけが攻撃手段にはならない。彼女はそのランスを自身の横に持ってきて、それを彼に向けて、真横に振るう。空中で姿勢を変えることもできない彼は、それに抵抗することもできない。硬化したままの体であるため、ダメージこそ現象しているのかもしれないが、それは問題では無い。彼は更に勢いを増して、地面に近づいていく。
彼は地面に勢いよく、叩きつけられる。そこまでの勢いがあると、いくら硬化していてもそれだけの衝撃を完全に無効にすることは出来ないのだ。彼はすぐには起き上がることはできななかった。全身が痛む中、彼はゆっくりと立ち上がる。しかし、次への行動を決めてはいない。完全に繊維喪失しているような立ち姿だ。それを見れば、フローも戦意を喪失するのも当然と言えるだろう。
「……俺の負け、なのか」
「それは貴様が決めることだ」
既に意気消沈しているレオの問いに冷たくそう答えた。口ではそう言っているが、この状態のままでは彼が再び戦うことなどできはしないだろう。彼女はそう思った。
レオは手の甲にあるしし座のマークを見ていた。オフィウクスに託されたもので、少しかもしれないが、彼に期待されていたのだ。彼は乱暴で戦うことしかできない自分にもこうして、役割をくれた。今、それを裏切っているような気がしてならない。勝てないからと言って諦めるのか。命を掛けて、戦うべきではないのか。彼の中で、人生で一番思考を巡らせていた。だが、彼に思考能力はない。戦闘センスだけで生きていた彼には、それを考えるほどの考える力は無いのだ。彼が硬直して知ったのを見て、フローは戦意を完全に消失した。後は彼の力を封印するための鍵を誰かから貰わなければいけない。
フローが戦っている近くには、サクラとジェミニがいた。既に勝負の決着はついていて、ジェミニは既にふたご座の力を失っている。つまりは既にジェミニではなく、メイトと呼ぶ方が正しいだろう。
「俺の負けだ。試練とか言ったが、最初からサクラの方が強いのはわかっていたんだ。悪いな、俺のけじめに付き合わせて」
「いいんです、これくらい」
二人は戦闘終わりと言うのもあって、疲れていた。サクラも変身を解くと、それなりに疲労が襲ってきていて、草原に座りこんでいた。だが、先ほどから近くで戦闘音が聞こえてきていた。多分冒険者がこの草原で、魔獣討伐の依頼でもこなしているのだろうと考えていたのだ。町の外で、戦闘音が聞こえてくるのは、変なことではない。本当は助けに行った方が良いのかもしれないが、さすがにメイトとの戦いでの疲労は残っている。近くで戦闘しているということは巻き込まれないとも限らないため、それを頭の中に入れておけば大丈夫だろうと彼女は考えていた。
近くで戦っている音が激しくなってきていて、サクラもその音がかなり大きいものだと理解する。魔獣が相当、強いのだろうか。だが、依頼を見る限りでは草原にはそこまで手強い魔獣はでていなかったと考えていた。つまり、今の戦闘は依頼にはない魔獣と戦っているということかもしれない。その場合、自身の能力に見合わない魔獣と戦っている可能性が高いだろう。
彼女はそこまで思考して立ち上がる。隣にいたメイトが立ち上がった彼女を見上げて、彼も立ち上がった。彼も理解しているのだ。サクラが近くで戦っている冒険者を放っておけないということを。戦闘後で疲れていても彼女なら助けに行く性格なのを知っている。
「メイトさん。少し――」
「わかってる。行こう」
二人は戦闘音が聞こえる場所を走り出した。だが、彼女が移動している途中で、戦っているであろう場所で何かが空に浮いていた。それは白い翼を持っている。着ている服は真っ白なワンピースのような服だ。そして、その人はワンピースの上から何かを纏っている。日の光に照らされて、それが光を反射していた。そして、その人の手には大きなランスが出現した。
サクラはそれを見て、翼を持っているという時点で彼女のことが頭に思い浮かんでいた。天使が彼女一人とは限らない。だが、その翼の人物が鎧を着て、ランスを持った時、彼女は確信した。今、空にいるのはフローライトであると。