天使の帰還と獅子の猛攻 5
フローはハンマーを握り、それを振り下ろした。腕を取られて逃げることが出来ないレオはそれでも片腕でハンマーを受ける。先ほどよりも、勢いをつけていないため、威力があまり乗らなかった。だからこそ、そのハンマーを片手で受けることができたのだ。その距離ではダメージを与えらえないとわかると、ハンマーを持ち上げて、彼の腕に巻き付く金属を自分から切り離して、空へと逃げる。レオは腕が解放された瞬間に、彼女から距離を取る。そう何度も、ハンマーを受けきることは出来ないだろうと考えているからだ。そして、再び両社は視線を交差させている。
「お前、どうなっている? 前に戦った時よりも強くなっているというのか」
「当たり前だ。彼女と肩を並べて戦うには、今以上に強くならないといけないからな。そのために、一度勝利した相手に負けるというのは、私にとってはあり得ないことだ」
レオは、彼女に勝つ未来が見えなくなってきていた。戦い続けるイメージはまだある。だが、彼女を自分の攻撃で地面に倒れさえるイメージが沸かない。こんなことは初めてだった。どんな相手にも勝つ手段があり、そのイメージが頭に浮かぶのだ。だが、この戦いが始まってからは、とにかく勝つという自身だけが先行して、フローライトに勝つためのイメージは全くないのだ。この状態ではどうすれば勝てるのかが、わからない。彼はそのイメージだけに頼って戦闘をしてきたのだ。そのイメージ通りに動けること自体が、戦闘のセンスがあるのだろうが、それに頼り自ら考えずに戦闘をしてきてしまった。そのせいで、今、彼はどうやって戦えばいいのか、勝利へ持っていくための糸口も探せなくなっていた。
フローは相手の動きが悪くなっているのがわかった。前に戦闘した時のような手ごわさと言うか、自身の勝利が揺るがないものだという自信がありありとわかるような戦い方をしていたのだ。攻撃や防御に迷いはなく、勝利へと行動を積み上げているかのようだった。しかし、今は威力が高いだけの攻撃を出しているだけで、その攻撃に当たるという自信がないような戦い方だ。彼女はそんな相手に勝つというのは造作もないことだと思った。そして、それは戦いを面白くないものにしていく。
それでも、そういったことを口にはしない。彼女は戦闘を楽しみたいわけではない。彼を倒さねば、町に悪い影響が出るかもしれないのだ。ならば、彼を倒す他ない。
彼女はハンマーを分解して違う物へと変えた。それは、銀色の胸や腰周りを守るためのアーマーになる。そのには、彼女の背丈よりも長いランスが握られている。ランスは灰色で、武器らしい武器と言えるだろう。そして、彼女はそれをレオに向けて構えた。レオは既に守りの体勢に入っており、回避するつもりもないのだろうかと思えるほどの防御に徹している。既に体を硬化させて待っているのだ。目こそ、彼女を睨んでいるが、今の彼には迫力も自身も感じない。
「既に諦めているようなら、貴様に誰かと戦う資格など無いな」
彼女は冷たい目で、彼を見ていた。そこにあるのは軽蔑だ。戦士として、二度ほど戦ったにもかかわらず、この決着をつけるという最後の戦いで彼は手を抜ているどころか自身の勝利を諦めているのだ。彼女は彼のことは嫌いだが、戦士としては認めていた。だからこそ、この三戦目で決着をつけたいと思ったのだ。だが、それも期待外れに終わると思えば、彼女のテンションの下がりようも理解できるだろう。
彼女はランスを構えた。彼に向かって加速していき、勢いを増していく。二人の距離など大した距離はない。彼女は加速すれば、その距離は一瞬で詰められるだろう。レオは体で、そのランスを受けた。硬化した体に、彼女の槍の先端がぶつかる。ぶつかるだけでは、彼女の勢いは止まらない。レオの足は地面についているというのに、それでも彼を後ろに押しているのだ。そして、彼女の持つランスの角度を少しずつ上にあげていく。彼はそれに抵抗しているが、それでも勢いの乗っている彼女の動きに逆らうことが出来ない。彼の体が持ち上がる。そして、彼女と共に空へと上がっていく。
「くそっ、くそくそっ!」
レオは自身の体を硬化しながら、彼女の力に抗えない自分の弱さに泣いていた。涙を流しているわけではない。吠えているのだ。レオは彼女との最後の戦いを楽しみにしていたのだ。そして、あの戦いから森の中で訓練しながら、彼女を探していた。ともすれば、彼女に恋をしているようにも見えたかもしれない。だが、そこにあるのは強者と戦いたいという想いだけだった。しかし、いざこうして戦ってみれば、このありさまだ。これが悔しくなくて、何を悔しがればいいのだろう。




