冒険者認定試験 3
勢いよくメイトの体を持ち上げた土の柱は途中で急停止した。その勢いを殺すことは出来ず、メイトは宙へと投げられる。どれだけ凄い冒険者であろうと、空中では姿勢を制御することも難しい。サクラは彼へ向けて、火球と飛ばす。しかし、その程度では、彼も魔法で防ぐことが出来てしまう。その証拠に、彼には一つたりとも魔法が当たっていない。サクラは自身の予想通りだと思った。だから、もっと魔法の威力を上げた方がいいだろう。相手は熟練の冒険者だ。これくらいのことで死んだりはしないだろう。そう考えて、いきなり魔法の威力を上昇させる。
「このくらいしか、制御できそうなのがないけど……」
彼女は掌をまだ空中にいるメイトに向けた。メイトも感じているが、彼女の手に火の魔気が纏わりつき始めている。彼はまた火球かと予想したが、それにしては明らかに彼女の手に集まる魔気の量が多い。彼がまさか、と予想をし直している間に、魔法は発動した。
「エクスプロージョン!」
彼女は出来る限り最小の爆発が起きるイメージをした。彼女の手から、小さいが、白い光を放つ球がメイトに向かって飛んでいく。彼はその光の玉を見て、すぐに逃げ出す準備をした。彼の超能力は逃げるのに適していた。空間をコピーし、その中に自在に入ったり出たりできるというものだ。彼はすぐに自分の周りの世界をコピーしてその中に逃げ込んだ。彼がその場から消えると、光の球は周りの魔気を自身に集めるかのように、引き寄せていく。その吸収が終わった瞬間、莫大な光と衝撃がまんべんなく辺りにまき散らした。この戦闘している場所を囲む塀も一部が半壊し、外が見えるようになってしまっている。そして、その魔法が終わるころには地面を少しだけ焦がしていた。被害と言う被害には合っていない受付の人も驚いていた。クールな人でも目の前でそれだけの爆発が起これば驚くのも無理はない。
爆発は収束したが、そこに彼に姿はなかった。サクラはもしかして蒸発させてしまったのではないかと思ったが、彼女の首元に木製の短剣が落ち当てられた。いつの間にか、メイトはサクラの後ろに移動していたのだ。そのからくりは簡単で、彼がコピーした世界から元の世界に戻ってきた場所が彼女の後ろだったのだ。もし、サクラが彼の超能力を知っていたり、彼が消えるところを見ていたら、戦況は変わっていただろう。少なくとも、ここで決着はつかなかったはずだ。サクラは喉元に当たるそれが本物でなくとも、冷や汗が出てきた。
「こ、降参、です」
彼女は変身状態のまま、両手を軽く上にあげて、降参の宣言をした。喉元に当てられたそれが無くなったことで、息苦しかったのが無くなった。やはり、強い冒険者に対して、力押しだけで勝てるわけがなかったのだ。
「ナチュレさん。この人、合格で」
「はい、わかりました。お二人とも、お疲れさまでした」
それから、三人はギルドに戻った。ギルドに着き、小部屋に通される。その部屋にはテーブル一つに椅子が四つあった。メイトの正面にサクラが座らされた。ナチュレは、書類などを持ってきますとだけ告げて、部屋を出ていった。メイトと二人だけだが、どちらも口を開かない。メイトが彼女をじっと見ているだけだ。サクラはその視線に耐えられなくなった。
「あの、私、そんなに面白いですか」
「あ、いや、すまない。君があまりにも強かったから、何者なんだろうって思ってね。それにあの格好、超能力の影響?」
「あ、その……」
あの変身のことを他の人に話してもいいのだろうか。物語だと変身のことは秘密にするのがセオリーな気がする。魔法少女でなくとも、変身するということは、変身していないときは弱いのだ。そこを狙われると負ける可能性がある。しかし、この世界では通常状態でも魔法をガンガン撃てる程度には、強いという自負がある。それならば、話してもいいのではないかと思った。そんなことをぐるぐる考えている間に、メイトは不思議そうな顔をしていた。
「あ、話したくないこともあるか。すまない、君があまりに強かったから、きになってしまった」
彼は話したくなさそうな彼女の表情をみて、自分が失礼なことを言ってしまったと思いなおす。彼はそれ以上、何も聞かなかった。彼は机をじっと見ている。サクラも彼と同じようにした。しばらく待つと、ナチュレが戻ってきた。持ってきた何枚かの紙を机に置いて、メイトの隣に座った。
「では、この書類に記入を。名前、年齢、性別などお間違いのないように」
バイトをしようと、履歴書を書いたことがあるが、それと似たようなものだった。履歴書と言っても、この世界で過去についていた職業はなく、書く場所もほとんどなかった。
「ありがとうございます。この内容で登録します。何か変更があった場合は、速やかに報告をお願いします。そして、この後すぐに冒険者カードを発行します。また、しばらくの間は、メイトさんと依頼を受けてください。彼が許可を出すまで、一人で依頼をこなすことが無いようにお願いします。では、メイトさんもよろしくお願いします。カードが出来るまで、表でお待ちください」
サクラとメイトは小部屋から出され、表の人が沢山いる場所に戻ってきた。この場所に来た時に、試験のことを教えてくれた冒険者もそこにいた。彼は、サクラとメイトが並んでいるところに寄ってきた。メイトに耳打ちをしているようだが、その内容は予想がついた。
「いや、この人は合格。経験がないだけで、戦闘能力だけ見れば、僕より上だよ。君たちでも、相手は出来ないかもしれないし」
男たちは、眉をひそめて、疑っているようだったが、メイトの言うことを一応は信じたらしい。それに弱ければ、結果が出ないだろうとも思っていた。
こうして、彼女の冒険者認定試験は見事合格で終わった。




