パイシスの最後 4
ヘマタイトがパイシスの真下に作り出した、彼の動きを止める柱は彼の足に絡みつくだけでなく、その柱からさらに柱を伸ばして、彼の足に突き刺そうとした。しかし、それが彼の足に突き刺さることはなかった。その行動に焦りを覚えて、パイシスは更に逃げる。高速移動を駆使して、逃げ回る。一瞬だけ止まり、すぐに高速移動を使って、逃げ続ける。今の彼は逃げ回るので精一杯だった。ヘマタイトも彼が止まる度に柱を出現させて、彼の動きを止めようとしていた。
そのせいで、パイシスは彼女の柱の動きを把握し始めていた。そうなると、彼の動きも変わってくる。理解できている物を恐れる必要はない。彼は高速移動を駆使して、再び彼女の背後を取る。それに彼女が気が付いて振り返ると、既に彼はそこにおらず、その時には彼女の後ろに移動しているというわけだ。
だが、ヘマタイトにはそんな戦略は通用しなかった。彼女は既に自分の後ろ側には罠のように魔法を仕掛けてあるのだ。彼が後ろに移動した時に、彼の正面には岩の棘が出現していた。彼はそれを視界に収めていたが、回避する間もなく、その土の魔法にぶつかった。高速移動で相手の背後を取ったという油断を利用した攻撃。彼はその攻撃を右の手の甲で受けた。意図的にそこに当てたわけではなく、彼が手を目の前で交差した時にたまたまそこにあったのだ。それでも、防御の意味はあった。彼は右手の指を動かなくなったが、それ以外の不調はないが、右手が動かなくなったというのは案外大きなハンデになるだろう。
手と足は連動して動いているのだ。その一部が動かなくなるというのは間違いなく支障になるだろう。そのはずなのだが、彼の動きには衰えは見えない。岩の棘にぶつかって吹っ飛ばされている間に、超能力を使い、彼女の方へと移動している。真っ直ぐ背後を取った。しかし、自身の攻撃のリーチに入る前に、少しだけ減速して彼女にも認識できるような速度で近づいた。彼女も接近に気が付いて、後ろを振り返った。その瞬間に、彼女の顔に高速の回し蹴りが迫る。彼女が振り返り、予測だけではなく、視界の情報が頭に入ってきたため、それを優先してしまった。それは無意識下のことであり、今の彼女はそこまでコントロールする術はなかった。彼女はもろに蹴りを受けて、真横にふっとばされる。吹っ飛ばした彼女に追いつく速度で高速移動して、踵落としを彼女の腹部に食らわせる。自分が吹っ飛んでいるという認識すら間に合っていない彼女に、その攻撃を防ぐ手段はなく、彼女は地面に叩きつけられた。口から空気が漏れる。出血などはないものの、痛みは感じるのだ。地面に叩きつけらた痛みはある。
ヘマタイトが起き上がろうと、上半身を起こそうとした。しかし、彼女は再び地面に寝転がった。それは虫の知らせという物だろうか。その知らせは間違っていなかった。彼女の頭のあった場所に鋭い蹴りが一閃した。彼女の肌も風を切る足が出す風圧を感じていた。それほどぎりぎりの蹴りが目の前を通りすぎたのだ。それを見た瞬間に、追撃が来ると確信していた。攻撃され続けていれば、彼女は攻撃することが出来ないと考えているのだろう。彼女の予想の通りに地面に横たわっている彼女の真上から踏みつけるように足を叩きつけていた。だが、既に彼女はそこにはいない。もはや、予測が当たるせいで、彼女も高速移動しているのではないかともう程だが、そんなことはない。彼女は逃げているのだ。
彼女が逃げる先に、パイシスが付いて行く。再び蹴り。だが、何度も同じ攻撃に当たることもない。彼女はその蹴りに合わせて灰色の土の壁を作り出した。茶色のものより強度のあるものだ。彼の蹴りはその壁に阻まれてそれ以上は前に勧めなかった。それだけではなく、その蹴りをぶつけた壁から泥が噴出して、彼の足を泥で固めたのだ。そのせいで、彼の足はうまく動かない。泥が重く、蹴りを出した足は地面に吸い付いているかのように、持ち上がりにくい。その泥は、それだけではないのだ。それはただの物質ではなく、魔法なのだから。
その泥は膨張していた。彼の足だけではなく、足首や脛。膝と徐々に上に登っているのだ。彼はそれを払おうとしているのだが、その泥を払うことはできなかった。それどころかその速度は増していき、更に彼の足を泥の中に閉じ込めることになっている。高速移動もできず、彼の動きは封じられたと言ってもいいだろう。彼は戦闘に使えるほどの魔法はほとんど使えない。使える魔法の中で、泥の魔法に対抗できるものはないのだ。