パイシスの最後 3
彼女は頭では理解しているのだ。パイシスの動きを見てから、その対処に動くことは出来ないのだと。だが、先読みするのも難しい。単純に足や拳を使った攻撃ばかりをしてくるだけなら、対処もできるかもしれないがそれだけではない可能性もある。あの速度で移動して距離を取り、魔法を使う可能性もある。相手の動きが全く分からない以上、対処も難しい。
「様子見なんて、意味がありません。とにかく、守りから攻撃に転じなければ、勝つこともできませんよ」
その声は正面から聞こえた。彼は会話するために、彼女の正面で止まった。しかし、ヘマタイトはそれに反応できず、まだ体勢を整えられていない彼女に拳を叩きつけようとしていた。だが、彼女は何とか、土の壁を作り、彼の拳をそこにぶつけさせた。彼の拳は土の壁を貫通することはなかった。だが、彼女の視界が自らが作り出した土の壁に阻まれている。そして、彼の超能力はその壁を越えて、一瞬で彼女に到達する。そして、今度は彼女の背中側から、拳を叩き込んだ。彼女はパイシスが背後に回ったことにも気が付いていない。いきなり、背後からの攻撃を受けて、自分が作り出した土の壁を壊して、地面に倒れた。
彼は今まで戦った人たちより強いと感じた。だが、勝てないわけではないだろうと思った。たしかに速い速度で移動して、その勢いを持ったまま攻撃できるというのはかなり強力な力だと思う。相手に認識されずに背後などの隙を突きやすい場所に移動して、気付いたときには攻撃を食らっている。現に彼女もその戦法の餌食になっていた。
「そ、そろそろ、ちゃんと戦います。これ以上はきついですから」
彼女は立ち上がりながら、その瞳に強い意志を宿らせ、彼を見つめていた。そこにはオブのような自信が露わになっているように思えた。だが、口先だけで勝てるほど、パイシスの戦法は甘くはない。彼女が立ち上がると同時に、彼は超高速移動を開始する。そして、そのまま真っ直ぐに空中を移動し続け、彼女に勢いの付いた蹴りで攻撃しようとしていた。だが、その蹴りが当たることはなかった。彼女は軽く横に移動しただけなのだが、それで彼の攻撃は躱せてしまうのだ。瞬間移動だろうが、高速移動だろうが、移動を開始した時と同じ場所にいなければ、相手の攻撃をすぐに受けるというわけでもないだろう。彼女はそう予想して、軽く自分のいる場所を移動させたのだ。そして、彼はそれを予想せずに、真っ直ぐに突っ込んだ。その結果、彼は草を薙ぎながら、自身のスピードを殺していた。地面を滑って移動したせいで、草もそれにつられて、引っこ抜けて、地面もえぐれていた。それを視れば、彼の超能力が瞬間移動ではなく、高速移動だと理解するだろう。
パイシスは純粋にその行動に驚いていた。超高速移動からの攻撃を回避されるとは思っていなかったのだ。その瞳に強い戦う意志が生まれた時点で、彼女の意識も違うものになっていると思った方が良いのだろう。
彼もそれに気が付いてるようだったが、彼は自らの戦闘方法を変えるつもりはないようだった。彼は更に超能力を駆使して、攻撃を続けようとしていた。真っ直ぐに突っ込んでいき、蹴りを叩きこもうとしていた。ヘマタイトは追撃を予想して、次の行動に出た。自らの足場を柱上にして、地面からせりだす。そのまま上昇する。その柱をパイシスは自らの足で砕いた。だが、彼の行動は彼女の予想のど真ん中を言っている。彼が止まった場所に、更に柱が出現する。彼女が足場にしていたような、太い柱ではなく、彼の足に絡まるようにいくつもの細い柱が伸びている。彼の足をその場に固定して、移動を封じようとしているのだ。しかし、その程度で彼の超能力を止められるほどの力は無く、彼はその大量の柱から抜け出した。
「逃がしませんよ」
彼女がそう呟くと、彼が速度を落としたところにさらに柱が出現する。それもそのはずで、彼が超能力を使う距離を彼女は把握し始めていたのだ。無尽蔵に移動できるかもしれないが、高速で動き続けることが出来ないのはわかっていた。もしできるのなら、戦闘の始まりからずっと、高速で動けばいいだけだ。しかし、そうしないということは、制限が無くとも彼がその移動速度にずっと付いて行くことが出来ないということだろう。そして、彼が超能力を使う度に、彼がその速度に耐えられるぎりぎりの距離の把握もしていた。だからこそ、彼女は相手の移動先の予想もでき、どこで止まるのかと言う予想もできるのだ。
彼女は単純な柱では足止めできないというのは先ほどのことで理解している。だから、彼女は更にその柱に工夫したのだ。




