パイシスの最後 2
「え、えと、私、と戦うんですか? 空白の鍵ってこれですか?」
彼女が戸惑いながらも、彼の圧やオブに背中を押されて前に出されたことで、混乱しつつも彼女は頭に何も描かれていない鍵を取りだして、彼に見せた。その鍵はサクラが万が一、ゾディアックシグナルと戦った時に、力を封印できるように渡していたものだ。サクラが持っているので一本、残り二本はオブとヘマタイトが持っている。最初はラピスに渡そうとしていたのだが、彼女はそれを断ったのだ。
「ああ、そうだ。じゃあ、森へ行こう。誰の邪魔もされない場所で、貴女の力を見極めさせてもらいます」
そう言うと、彼はギルドを出ていった。ヘマタイトは、オブとラピスの顔をそれぞれ一回ずつ見て、不安そうな顔をしていたが、特に助けてくれる様子もないとわかると、彼女もギルドの外へと出た。彼女がギルドを出ると、カイトが既に道を進んでいた。彼女はその背を見つけて、小走りで近づくが隣に並んで歩くことは出来ず、彼女は少し後ろから付いて行く。
町を出て、森の中へと入っていく。魔獣がちらほらみえるが、それも全て、カイトが倒していた。それも森の浅い部分の魔獣などは大した敵ではないようで、彼は挑んでくる魔獣を殴り殺していく。殴り飛ばした魔獣も放置して、真っ直ぐに進んでいく。ある程度、森の中に進んでいくと彼はそこで振り返った。
「ここらで大丈夫でしょう。私はゾディアックシグナルのメンバー、パイシスです。今の私には、彼らのような考えはありませんし、この力を貴女たちに渡すべきだと考えています。ヘマタイト・メイザース。貴女にはその実力を見せてもらいます。うお座の力が使いこなせるほどの力を持っているのか。その資格について、未知数なのは貴女だけですから」
ヘマタイトは彼の言っていることをあまり理解はしていない。しかし、彼がゾディアックシグナルのメンバーだというのなら、その力を渡してくれるということは理解していた。そして、そのためには戦わなくてはいけないのだということも理解した。
「さぁ、変身してください。全力で戦いましょう」
ヘマタイトは戸惑いながらも、てんびん座の鍵を取り出した。その先を胸差し込んで、それを右に捻る。すると、彼女は光の中に包まれていく。その光が弾けた後にはモノクロの衣装に身を包んだヘマタイトがいた。彼女は未だに、多少混乱しているが、それでも戦おうという考えはあった。
「では、戦闘を始めましょう。最初に注意しておきますが、本気で戦ってくださいね。出ないと、ミラクルガールでも死んでしまうかもしれませんので」
彼の目が細く、鋭くなる。それだけで、ヘマタイトは圧された。彼女は威圧感に弱い。たとえ、あいてが 弱くても魔獣が咆哮するだけで、一瞬動けなくなることも多々あった。そして、パイシスが持つ余裕が、自分との実力の差を理解されているようで、自分が先に動いて、ダメージを与えられるようなイメージが浮かばないのだ。パイシスが先に動かないと、彼女は攻撃できないのだ。
彼女が攻撃してこないとわかると、パイシスから攻撃を仕掛けることにした。彼は超能力を使って、彼女に仕掛ける。彼の超能力は超高速移動だ。誰の目にも追えない速度で、空中を移動するというものだ。周りの人には瞬間移動に見えるが、進路上に障害物があれば、移動することは出来ない。だが、それを避ければ、移動できるのだから、森の中でもその超能力が弱いというわけでもなかった。彼はその蝶拘束と言う速度をコントロールできる程度には、超能力を使いこなしているのだ。
彼は超高速移動を駆使して、彼女の後ろに移動した。その位置から、彼の蹴りが彼女の横からぶつける。彼女はその速度に付いて行けずに、もろに蹴りをお見舞いされた。木々にぶつかることなく吹っ飛んで、地面を転がり、草をなぎ倒していく。木にぶつかる前に、手と足を地面に付けて片膝立ちのような体勢で、勢いを殺した。その場所で立ち上がり、彼のいるであろう方向を見たが、既にそこにはいなかった。そして、次に出てきたときには彼は真正面であり、その距離は彼の足や手だけでなく、ずつきすら当てられそうな距離だ。まだ、立ちあがり切れていない彼女の目の前に彼の拳が迫る。その拳から身を守ろうと手を出したのだが、その拳から受けた衝撃はただのパンチではなく、更に後ろに滑るようにして飛ばされる。後ろにあった木に背中をぶつけてようやく止まる。衝撃がその身に負荷をかけて、口から声が漏れた。だが、まだまだ彼の速度についていくことは出来ていないのだ。