試練と称して 6
メイトは自分を閉じ込めようとしていた土の柱を壊すことに成功していた。だが、それで安心できる状況ではない。彼はまだまだサクラからの攻撃を警戒しなければいけない。このまま、攻撃を受け続けることは出来ない。それしかできないならば、この時点で負けを認めなくては無意味な戦いになるだろう。彼が使えるのは魔法だけではないのだ。
彼は柱を壊したところで、超能力を使って、コピー空間の中に逃げ込んだ。彼女の攻撃もそこまでは追撃しては来ない。そもそも、彼は超能力を考慮しなければ、ふたご座の力を持っていても、そこらの冒険者とあまり戦闘力は変わりないのだ。超能力を使えるからこそ、強く見えるというだけだ。彼の超能力は負けない超能力なのだ。それは対人戦でも同じだ。彼が自ら作り出した空間に隠れれば、それは絶対のシェルターになる。だが、負けない超能力は決定打に掛けているともいえるだろう。現に今、サクラに攻撃し続ける手段がない。彼が外にいる者に攻撃するために、彼はその空間から出なくてはいけないのだ。
彼は扉を少しだけ開いて、外の様子を確認した。その状態でも彼女に見つかれば、それだけ攻撃される可能性があるだろう。だが、彼は運よく彼女の死角から覗くことに成功していた。だが、彼が地面に足を付ければ、音が出るのを避けることは出来ない。だから、彼は人形を操りながら、連撃を仕掛けるしかない。何にしても攻撃力の高い彼女を攻略するならば、攻撃させないようにするしかない。彼はそう考えて、扉を閉める。そして、彼女の位置を核にした彼は、サクラの近くに扉を開いて、そこから人形の手を伸ばす。人形とは言え、その手は木製だ。布でできている人形とは全く違い、拳を前に出して、相手にぶつければそこそこの威力がのる。彼が開いた扉から、人形のパンチが飛び出していく。それはサクラの頭を狙っていたはずだが、それが彼女に到達する前に彼女は勘付いて、開いた扉の方を見ていた。彼女は脅威の反射神経で、人形の腕を取った。掴んだ拳をそのまま引いて、人形を引きずり出した。人形は抵抗しているが、彼女にとっては意味のないものだった。人形を引きずり出すと、それを自身の下に組み伏せる。そして、彼女は頭に何も描かれていない鍵を取り出し、その人形に突き刺そうとしていた。彼から星座の力を奪えば、彼女の勝ちは確定と言ってもいいだろう。それに気が付いた彼女はないも書かれていない鍵を人形に向けているのだ。
だが、そう簡単に力を鍵に移させるほど、メイトは甘くない。そもそも、人形に単純な攻撃を仕掛けさせたのは、それを囮にすることが目的だ。彼はコピー空間から出て、彼女に魔法を使おうとしていた。
「土よ! ロックスターキャノンッ!」
彼がそう唱えるといくつもの掌とほぼ同等のサイズの土の塊が出現した。それらは生成されると同時にサクラに向かって飛んでいく。彼女はそれに気が付いているが、防御することもなく、鍵を人形に向けて進ませる。土の塊は彼女が考えているよりも威力があった。そのため、彼女は手を一瞬だけ止めて、土の壁を作り出した。それは茶色の壁ではなく、黒いに近いものだった。メイトの魔法ではそれを貫く手段は持っていない。しかし、その壁は一定方向鹿防ぐことしかできていない。彼はそれをすり抜けるように、飛ばしている土の塊の軌道を操作する。飛ばしている全ての土の塊を操作できるわけではないのだが、それでも彼女の邪魔をすることは出来る。壁を乗り越えて土の塊が彼女にぶつかる。その度に、彼女は人形の上から落ちそうになる。人形は常に暴れようとしていて、彼女にロックスターキャノンがぶつかる度に彼女は人形の上から堕とされそうになっているのだ。
「大人しく……してくださいっ!」
彼女がそう叫ぶと、彼女の周りには火の球が出現する。そしてその一部が彼女に飛んできている魔法を焼き尽くして、彼女を守る。そして、残りの火球は人形の近くに移動する。そして、人形の近くでそれぞれが爆発を起こした。
「くっ、うあ……」
メイトの口から我慢していた苦痛の声が漏れ始める。人形の体の表面は爆発したところから、黒く焦げが付いていた。彼の苦痛の声はサクラまでは届いていない。それもそのはずでそこまで近くはないのだ。彼が大声を出さなければ、彼女に届くこともないだろう。苦痛の声が届かないため、彼女は人形の体の表面を爆発し続ける。やがて、人形も暴れなくなり、土の魔法も彼女目掛けて飛んでくることもなくなった。そして、ついに彼女はメイトの人形に鍵を突き刺して、鍵を捻った。