試練と称して 2
サクラは胸に鍵を突き刺して、ミラクルガールに変身した。彼女はそれ以外の武器を出そうとはせずに、桜色の衣装だけで戦うようだ。彼女は変身した状態だが、特に構えるということはなかった。そもそも、素手で戦うのは久しぶりのことだった。そして、メイトも彼女の変身を最後まで見届けて、彼女の準備が出来たところで、彼も構えをとる。身を低くして、相手の出方を伺うような体勢を取る。サクラは彼が先に動く前に動き出した。
サクラは既に上限を上昇させている能力の全力は出さないように、力を調整して走り出した。彼女は自身の超能力を自覚した時から自身の超能力を調整しながら使うように組んレしたのだ。使いこなせているとは言えないが、自覚したころから比べれば、比べるまでもなく、マシになっていると言えるだろう。その成果は確実に出ていて、メイトも彼女の速度が自身の予想以上に速かったのだ。だが、だからと言って、予想以上に速かったというわけでもない。彼女ならそれくらいの身体能力はあるだろうと考えて射のだから当然だ。
サクラは走りながら、一歩目を踏み込んだ。その力を全身に伝えて飛ぶ。空中にいる間に、踏み込んだ足を前に出して、同じ足でム見込む。さらに飛距離は伸びていき、三歩目には踏み込んだ足とは反対の足だ。三歩目が地面につく前に彼女は手を思い切り引いている。三歩目を踏み込むと同時に、その手をメイトに叩き込もうとしていた。しかし、その拳が彼に当たることはなかった。
彼の超能力は現実の空間をコピーして、新たな空間を作り出すというものだ。サクラたちはあまり、その力に助けられてきたとは思っていないが、彼がいなければ今以上に町に被害が出ていたのは確実だろう。さらに、ミラクルガールになれる人が確実に死んでいたのも間違いない。彼の超能力は、サクラたちを助けていたのだ。そして、その超能力を今は敵に回している。彼の超能力は負けない超能力である。逃げるのには適しているし、コピー空間の外からの攻撃は中には届かないのだ。閉じ込められたときはその空間の耐久を超える負荷を掛けると空間は崩れるが、その負荷の容量も楽に敗れるような要領でもない。どちらから攻撃するにしても、逃げ続けられたらまず確実に勝てなくなるような超能力。そして、その空間の扉は彼にしか見えないのだ。
彼女からの攻撃は大振りだったために、どんな威力だろうと攻撃が来るのは誰だって理解できることだった。彼はその攻撃は来る前に、自身をコピー空間へと移動する。メイトと人形はそれぞれ別の方向に逃げたように見える。そして、別の空間に逃げるとサクラからはその姿も見えなくなる。相手がどこから出現するのかも予想が出来ない。
彼女の背後で何か音がして、その方向を振り返る。彼女の後ろには人形がいた。それは彼女に手を伸ばして、丸い手で彼女に攻撃しようとしているのがわかる。彼女はその手を抑えて反撃しようとその腕に手を伸ばした。しかし、その手を掴むことは出来なかった。それどころか、彼女の上で音がして、彼女の腕が掴まれる。そのまま、彼女を持ち上げて、上に吸い込まれるかのような感覚を味わった。持ち上げるような力が働くと思っていなかった彼女はそれに抵抗できるはずもなく、簡単に持ち上げられる。地面から足が離れて、持ち上げられる力が消失する。空中に彼女を放置して、メイトは地面に出現した。
「風よ! サイドワインダーエアロッ」
彼の周りに一瞬風が巻き起こり、それは彼女の周りへと移動する。そして、彼女の周りを回った。その風は、彼女の様子を見るかのようにゆったりと周ったかと思えば、次の瞬間には彼女をあらゆる方向から衝撃をぶつけていく。空中にいながら、未だ、体勢を整えられていない彼女にそれから身を守るのは難しく、その攻撃を受けて、地面に引かれて地に落ちる。
サクラはその程度の魔法で傷付くわけもなく、地面に落ちたからと言っても、そこまで高い位置でもないため、それによるダメージもない。だが、今の魔法は彼女が変身していなければ、かなりのダメージになっていたのは間違いない。それだけ彼が本気だということだろう。そして、それをさらに深く理解することになる。
「土よ。ソイルブロックッ」
彼がそう唱えた声は、彼女には聞こえていなかっただろう。彼女の真上には彼女の何十倍の質量を持つ土の立方体の土の塊が出現していた。そして、彼女がそれを認識した時点で、それは落下を初めている。彼女はとっさに逃げようとしたが、手が動かない。足が動かない。焦りながらも手足を見ると、何者かに押さえつけられていたのだ。正確には手足を真後ろから抑えられているような形。背中側は地面だが、その位置から抑えらえているのだ。彼女は更に焦る。