自在の翼 5
レオの周りで、フローのチェーンが暴れまわる。規則性がないため、それを防ぐのも避けるのも難しい。先に進もうとすると、無軌道なチェーンが彼の体を打とうとしているのだ。彼はそのチェーンの前で少しの間、立ち止まると踊るチェーンへと突っ込んできた。チェーンが自身の体を叩くのも気にせず、突っ込んでくる。フローは、その程度なら予想していて、武器を粘土状にして自身の手元に球体になるように戻した。戻る速度はレオよりも速く、手に戻ってきたそれを槍へと変化させる。棒状のものの先にひし形の辺を内側に曲げたような槍。突くだけではなく、横に振っても斬ることが出来るような構造の槍だ。レオが向かって来るのに合わせて、彼女も槍を前に突き出しながら、全身する。相手との距離を測り、レオを槍のリーチの中に留めようと狙っていた。レオは彼女の狙いなど知らず、彼女に近づいていく。体に何が当たろうとも気にしておらず、真っ直ぐに突っ込んでくる。
勢いの付いている相手に向けて、彼女は槍を突き出した。相手の動きは止まったが、槍が彼の胴体に突き刺さることはなかった。相手を槍の先で着き飛ばそうとして前に押したが、彼が後ろに下がることはななかった。両端から力を与えられれ、中ほどから折れた。彼女はそれを見て自身の持っていた棒を粘土に戻す。戻すときには、手の中で球体になるようにイメージする。折れた先の棒は地面に落ちる前に、粒子になり、魔気へと還る。彼女は翼を拾げて、空に浮かんだ。レオは飛び上がり、彼女に再び拳を当てようとしていたが、彼のジャンプ力では彼女にはととどかなかった。彼が地面に落ちる前に、フローは手に持っていた粘土を再び先ほどのような槍にして、彼女たちの真上にあった木の枝を取り払った。二人の戦っている場所に大量の光が入る。
「これで少しは見やすくなっただろう」
レオはその光に目を細めた。光のあまり差さない森の中で戦っていたのだ。いきなり、大量の光が目の中に入ると当然眩しい。そして、彼が目を背けている間に彼女は真上から奇襲をかける。光を背負いながら、彼女は槍の先端を真下に向けながら、落下していく。
「くっ。これでもまだ駄目か。どれだけ固いんだ」
彼女の槍は彼に突き刺さることはなく、弾かれた。彼女はその場に留まり、槍を横に振るう。その先端が確実にレオの手にぶつかっているのだが、傷一つ付いていないのだ。傷ついていたいのは、肌や肉ではなく、その体毛すら傷ついていないように見える。彼女は持っている槍を何度か横に振るったり、振り下ろしたりしたが、それでも彼にダメージを与えられている手ごたえはない。明らかにダメージを与えられていないのだ。
「その程度の力で、俺に傷つけようなんて無駄だ。そもそも、変身してないというのはどういうことなんだ。出し惜しみをして俺に勝てるというのなら、俺を甘く見すぎだ」
彼は槍を掴んで、彼女を地上に降ろそうとしたのだが、フローが意図的に槍の途中から分離させて、再び、彼女の手の中で粘土の球に戻った。彼女はレオの近くにいなければ、警戒しなければいけないのはそうだが、ある程度安全だと思っていた。知識の中で、どれが有効な手段であるのかを考える時間を少しは稼げそうだと考えていた。そして、彼の言葉に堪えるというのは、更に時間稼ぎになるだろう。
「変身しないわけではなく、変身できないんだ。ミラクルガールになるための鍵が手元にないからな」
「全力を出せる準備もなく、挑んでくるとは。冒険者の風上にも置けんな」
「あれを使わずに戦って、引き分け以上の結果になるなら、あれを使えば確実に勝てるということだろう。元の実力を計るにはあれは必要ないからな」
「やはり、馬鹿だな。言っておこう。俺はお前を殺す。相応の準備もせずに、戦いを挑むクズを排除してやる。これを教訓にして、来世を生きるが良い!」
レオはいきなり飛んだ。彼が飛んだせいで、地面が抉れている。その跳躍力は、フローに届くほどだ。彼女は何のモーションもなしに彼が飛んできたことに驚いたが、彼の飛んでいる軌道から逃げればどうと言うこともないと思い、彼女は更に跳びあがる。
「逃げてばかりだなぁ。いい加減、正々堂々と戦え!」
レオは着地と同時に、再びジャンプする。確実にフローを捕らえられる軌道だ。先ほどよりもさらに勢いがついていて、高いジャンプ。しかし、レオが高い場所に移動することには、既にフローは地面にいた。
「風よ。スウィッシュ」
風の球が三つほど出現する。その球が、勢いよく、空中にいるレオの前に移動した。球の一つは彼女の正面で止まる。残り二つは、彼の正面にある球と合わせて、正三角形になるように移動した。