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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
40 自在の翼
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自在の翼 1

 町の近くにある森の中。奥に進めば進むほど、強い魔獣が住んでいる。それを噂などではなく、冒険者でなくとも知っている周知の事実だ。冒険者ですらも、気安く進むことは出来ない。ギルドの依頼にも森の奥の魔獣を討伐するなんて、依頼はほとんど入って来ない。そもそも、そこに入る人などいないため、依頼になることもないのだ。稀に森の奥から強力な魔獣は出てくるが、その依頼をこなさないと町が大変なことになるため、冒険者が総出で戦うこともあるほどだ。


 そして、その森で戦っている男がいた。その男は獅子の獣人だった。自身の鍛錬のために強力な魔獣と戦おうとしていた。そもそも、森の奥に進まなければ、鍛錬にならない程、彼は強いのだ。だが、彼はそれでも足りないと思っている。


 彼はゾディアックシグナルのレオ。しし座の力を貸し与えられた獣人だ。彼はもとより獅子の獣人である。そして、しし座の力との相性が良かったというだけだ。そして、彼は他のゾディアックシグナルのメンバーとは違い、オフィウクスに感謝こそすれど、彼に忠誠を誓っているわけでもない。彼の為に戦おうという気はさらさらないのだ。オフィウクスもそれを気にしていない。そもそも、自分に協力してくれるから力を貸し与えたというわけではない。それぞれがこの世界をより良くするための力に過ぎない。たとえ、自分と敵対するとしても、それは信念と信念のぶつかり合いであり、それを悪とは彼はよばなかった。そして、このレオと言う男は自分が強くなることで、弱い者も強い者も守ることで人々が何にも怖がることなく生活できると考えているのだ。しかし、彼の本質は戦闘狂。彼の理想はただの自身の暴力を正当化するための盾に過ぎないのだ。実際、彼は町を襲うゾディアックシグナルのメンバーたちや町を脅かす魔獣が出たときも、町を守るなんて動きは一つもしていない。この森で修行していたと言えば、言い訳くらいにはなるだろうが、それは正当な信念とは言えないだろう。それでもオフィウクスは全く口を出してこないことを彼は深く考えることはない。戦えればそれでいい男なのだから、それ以外のことはどうでもいいのだ。


「くそ、ここらでも大して手ごたえもなくなってきたな。もっと奥に行くか?」


 独り言をまるで他人に聞かせるかのような声の大きさで話しながら、レオは戦っていた。彼の周りには大量の倒した魔獣が転がっていた。様々な種類の魔獣がいて、その全てが大量の深いひっかき傷で血を垂れ流しているようだった。それ以外にもおそらくパンチやキックによって胴が歪み死んだ魔獣や、四肢がもがれて絶命している魔獣も転がっている。辺りに死体が転がっていても、レオはそれを気にしている様子はなく、それどころかその環境が彼を興奮させているともとれる。血の匂いが彼の戦いの本能を刺激しているのだ。


「醜いな。前に会った時はそこまでではなかったと思ったが」


 レオの後ろから声を掛ける女がいた。レオは他人の声を聞いたのは久しぶりな気がした。魔獣は言語を扱わない。意味のある言葉を耳に下は久しぶりだ。その珍しさに彼は振り返る。そこには白いワンピースのような服を着た天使がいた。比喩ではなく、白く綺麗な翼を持っているのだ。地上にいるため、その翼は閉じている。森の中の木々の隙間から差す光が翼に当たると、その光を強く反射しているようにも見えた。


「俺に何か用か?」


「ああ、そうだ。お前と戦いに来た。私も多少は訓練をしてきたのだ。その成果をお前で試させてもらおう」


「はっはっはっは! 俺を相手に試す、と? お前は馬鹿だな。相手と自身の力の差も測れないのか?」


「……その言葉、そのままお前につき返そう。何にしろ、戦えばわかることだ」


「それもそうだな。俺はレオだ」


 天使の女性は相手の名乗りに首を傾げていた。そんなことはずっと前から知っているのだそして、すぐに目の前の男が、自分のことを忘れているということを理解した。それならそれでいいか。彼女はそう思って、相手に習って名乗ることにした。


「フローライト・キャロル。それが私の名前だ。覚えておけ」


 最後の言葉は、レオが自分の名前を憶えていないことへの当てつけだ。彼女が名前を名乗っても、レオは全く思い出す素振りもない。最後には逃げることを許されるほど舐められた相手に全く覚えられていないというのは、やはりそれでいいかで済ませるわけにはいかない。この戦いで、あの時の雪辱を果たそうと決意を新たにした。


 フローが翼を広げる。彼女は広げた翼から落ちた羽を拾い上げた。そして、それに彼女自身の超能力を使った。彼女の手にあるのは盾と剣。一枚の翅から二つの武器を作り出したのだ。

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