再開花 6
見えない拳を視られる方法とは、土の魔法である。土の魔法で砂を辺りに漂わせて、その砂が避けられたところにその拳があるというわけだ。サクラが元居た世界の物語でいは使い古された、見えないものを視る手段の一つであった。彼女もその方法はこの戦いが始まる前からその手段は頭にあった。それを使わなかったのは、相手が超能力を使っているのか確信が持てなかったからだ。一撃でも受けなければ、その方法を使う意味がない。砂をばらまくだけの魔法など効果はほとんどないだろう。砂嵐のように大量の砂が待っていれば、相手の視界を塞ぐこともできるだろうが、その状況は自分も同じ状態になるだけである。
「なんだこれ、砂か?」
オブはサクラがその魔法を使った意味を理解していない。せいぜいが視界を奪おうとしているのかと言う程度の予想だ。風の魔法のように人を押さえつける力が発揮できるほどの砂の量でもない。しかし、オブはサクラが何をしてくるのか想像がつかないため、警戒せざるをえなかった。警戒しつつも、彼女は動き続ける。地面に降りた後は更に足元に柱を立てて、自身を柱で持って勢いを付けて、地面とほぼ平行にジャンプした。かなりの勢いをもったオブがサクラに近づいていく。彼女は超能力ではなく、自らの拳で勝負しようとしていた。サクラは砂の魔法を使ったせいで、オブの超能力だけを警戒しすぎていた。彼女自身が突っ込んでくるという選択肢を彼女の頭から抜けていたのだ。魔法や超能力を使えるのはこの世界の常識だが、サクラにとっては常識ではない。だからこそ、強力な力に頼るだろうという考えの方が強く働くのだ。それが彼女の思考を狭めていた。
オブはサクラの行動が遅れていることに気が付いていた。そのままの勢いで、地面に足を滑らせて、その勢いを自身の拳に乗せる。彼女が近づいてくると迫力があった。サクラはオブの攻撃に土の壁を張ることしかできない。オブは躊躇なく、その壁にを殴りつけた。ただの土の壁は難なく、壊すことができた。壁の向こうのサクラが驚いたような表情をしている。
「この程度で、止められると思うなよ!」
彼女は壁を殴った手を引き、その反動を利用して、反対の拳を前に出す。既にサクラは彼女の拳のリーチの中にいる。それも威力の一番乗る領域にいるのだ。サクラは土の壁が壊された時点で、自身の動体視力と自身の体の俊敏性を上限まで上げる。それでも既に彼女の拳は自身を捕らえた軌道に乗っている。回避するにも防御するにも普段なら間に合わない距離だ。しかし、今の彼女は能力を上昇させた状態で、オブの攻撃に集中する。集中すればするほど、周りの景色がゆっくりと動くようになる。ゆっくりと動くのは自身の動きも一緒だ。しかし、サクラはオブの腕を掴もうとしていた。手を前に出して、自然に彼女の腕を取る。彼女の拳を自身の腕に外側を沿わせる。オブの攻撃を完全にいなして見せた。
「なっ」
オブは彼女に攻撃を当てられると確信していた。そのため、その攻撃が防がれたり、ましてや避けられたりするなどと言う考えはなかった。しかし、その一撃で倒せるなんて確信はなく、次の攻撃を用意していたのだが、自身の拳が前に進むにつれてサクラが自身の横に来た。サクラは受け流した拳の横を抜けていき、相手の後ろに回りこんだ。オブはそれを認識していても、サクラに抵抗するのは難しい。オブは勢いの乗った拳を引きながら、身を低くしようとした。だが、彼女が身を低くしたところで、サクラよりは大きいため、ほとんど意味を成さない。サクラはオブの後ろに回りこんで、彼女の足の前に自身の足を出して、彼女を突き飛ばす。身を低くしていても、前につんのめる。サクラの足が引っかかり、彼女は前から転ぶ。手を付きながら体を回転させて、体勢を整えようとしたのだが、サクラの蹴りが、オブの横っ腹に入った。体勢を整えきれず、彼女の蹴りを防ぐこともできない。かろうじて、身を引いて彼女の蹴りの勢いを多少殺したが、その程度では微々たる抵抗でしかなかった。オブはその場から少しだけ跳ばされたが、足から地面に着地した。勢いを殺して、しゃがんだ状態から立ち上がろうとしたが、少し膝が持ち上がっただけで、すぐに地面についてしまった。オブは立ち上がることが出来なかった。
「勝負ありですね」
彼女は膝を付いている間に、サクラが彼女の目の前にいた。この状態で大逆転の一手など思いつかない。ましてや、サクラに勝つなんてことは無理だろう。オブ自身も理解しているのだ。ミラクルガールの状態のサクラに追いつめられて勝てる行動などはないのだと。