冒険者認定試験
「それでは、双方、準備はよろしいですか」
冷たい声のまま、受付の人が左右に分かれた二人に声をかけた。メイトは静かに頷いて、サクラは小さく不安そうに頷いた。二人の返事を受けて、彼女は片手を上げた。
「それでは、開始!」
彼女が手を降ろしたことで開戦する。サクラの相手であるメイトは動く気配がない。彼が何を得意としているのかわからないが、最初から動かないというのは、攻撃を誘っているのか、カウンターを使うタイプなのかと考えているが、戦ったことのない彼女は頭を回すだけ無駄だと考えた。しかし、真っ直ぐ突っ込むのは馬鹿すぎる。この世界で使えるようになった魔法で責めることにした。ラピスに習った魔法の使い方を頭の中でおさらいする。発動、過程、結果をイメージして、魔気を利用する。
「火よ!」
彼女のイメージ通りに小さな火の球が出現する。メイトはそれを見ても何もしない。その火の玉が真っ直ぐメイトに飛んでいく。彼は火球を軽くよけた。そのあとでも特に何か動きがあるわけではない。試験官として何かを見ているかもしれない。
「あまり、悠長にされても困るんだ。僕にも予定があるからね」
確かにその通りだ。せっかく試験官を務められるほどの人物なのだから、仕事がこれだけと言うことはないだろう。冒険者と言うことはこなしたい依頼もあるのかもしれない。
「そ、そうですね。本気でやらないと失礼ですよね。では」
彼女はポケットから例の鍵を取り出した。彼女は迷いなくそれを胸に突き刺した。そして、それを右に捻ると、彼女は光に包まれる。ヒールに手袋、足と腕に桜色のリボンが結ばれている。腰には赤色の大きなリボンテープが緩く巻かれている。余りの部分は彼女の腰から後ろに流れている。三段のスカートにはフリルがあしらわれていて、胸に大きな赤いリボンが付いていた。変身が終わると、メイトも受付の人も驚いた顔をしていた。それは当然だ。いきなり、キラキラしたと思ったら、早着替えをしたのだ。何をしたのかわからないだろう。しかし、彼女にとっては本気の本気状態だと思っているのだから、仕方ないだろう。
「行きますよ!」
先ほどまでの不安そうな表情は跡形もなくきえ、そこには希望が溢れているような顔をしている。瞳が輝いているようにすら見えるのだ。しかし、メイトはそれで油断することなく、彼女の動きをみていた。彼女は既に地面を蹴り、メイトに向かって蹴りを当てようとしていた。しかし、あまりに真っ直ぐな攻撃。隙だらけの攻撃にメイトは不合格を決めた。このコンタクトでサクラを気絶させるつもりだ。サクラの蹴りが迫り、ギリギリまで引き寄せてから回避すると同時に、拳を軽く突き出して彼女の顎を狙う。だが、それが当たる前に彼は後ろに飛んだ。そして、彼がいたところから、火柱が伸びていた。やがて、それは小さくなって消える。メイトは油断してはいけないと思っていたのにも関わらず、油断してし待っていた。攻撃が蹴りだけだと思ったのが間違いだった。彼が思考している間にも彼女は次の攻撃を放つ。
魔法の名も魔気に言葉を掛けずとも魔法が発動する。まさか、そこまで詠唱省略できる魔術師に出会ったことはなかったため、回避が遅れる。彼女が出したのは風の刃。見えないというのも相まって、彼の腕が軽く切れた。少量の血が流れたが、大したダメージに放っていないだろう。彼に落ち着かせる時間も与えず、次の魔法を放つ。十を超える程度の石の破片。それらが彼に向かって真っすぐ飛んでいく。メイトはそれを回避すると同時にサクラに接近しようとしたが、あの火柱のような魔法が前準備なく発動するなら完全には回避できないだろう。ある程度魔気の流れを把握することは難しくはないが、相手が細かい魔法を連発している以上、完璧に流れを把握することは出来ない。彼女の細かい魔法が周りの魔気の流れを変えているのだ。メイトは試験前に渡されていた木の短剣の握りに触れた。武器を使わないと戦えないかもしれない。しかし、魔法を使うだけなら、大した脅威ではないのだ。詠唱なしでも、魔気が少なくなれば、勝手に気絶するだろう。それもこれだけの魔法を連発しているのだ。すぐに魔気切れを起こすだろうと考えて、短剣から手を離した。それからも、彼女の魔法をギリギリで回避していた。そのギリギリは余裕を意味していた。相手は実力のある冒険者なのだ。敵の攻撃に慣れるという技術も持っているに決まっている。そうでなければ、魔獣の討伐などできはしない。相手はこの戦いのように死なないようにと気にしてはくれないのだから。
相手の魔法に慣れたメイトは魔法をかいくぐり、サクラの懐に入ろうとしていた。




