叩き起こしてやる 6
ラピスの魔法をどうにか凌いでいたオブだったが、彼女を追尾して動く白い球が彼女に追いつこうとしていた。ラピスは彼女を逃がす気はないようで、少しも魔法を緩めるなんてことはしない。
オブは振り返らずとも、白い球が近くにいるのがその明るさでわかった。オブはそれが自身にぶつかった時に何が起こるかわからない以上は当たるわけにはいかなかった。しかし、逃げるのにも限界がある。逃げるのを諦めて、彼女は白い球を受けることにした。何が起こってもそれから身を守ることが出来れば、ダメージにはならない。だから、彼女は全力で防御することにした。分厚い土の壁で自身の周囲全てを守る。天井にもその壁と同じだけの土の壁を張る。さらに超能力を使い自身を包み込むようにする。外から見れば、立方体のブロックだ。
そして、彼女が動かなくなったため、白い球は彼女が中にいる土のブロックにぶつかった。ぶつかったところで、その土の塊の表面を這うように火が走る。一瞬でブロックが燃え上がった。それだけでは終わらず、火の勢いは更に強くなる。火の色も赤や橙から、白へと変わっていく。そして、火は揺らめかなくなり、天に白い柱が伸びていく。天を突くように尖り、確実に中にいる者をその炎の柱の中に閉じ込めようとしていた。土の壁が無ければ、ミラクルガールとは言え無事では済まなかっただろう。
土の塊の中にいる彼女も見た目には無事だったが、外から伝わる熱は土の壁では防ぎきれない。作った空間が熱されて、温度が上昇していく。オブは外がどうなっているのかは理解できていない。しかし、それだけの熱が中に伝わるということは外はそれ以上に暑いというのは簡単に理解できた。オブは暑すぎて早く外に出たいと思っているのだが、それをしてしまえば、大ダメージを受けるのは目に見えている。そう思っていても、熱により意識が朦朧とし始めていた。意識がしっかりしていないと、魔法を維持するのが難しくなっていく。
白い炎の柱は未だに衰えることなく燃え上がっている。オブが維持している土の壁の表面は黒く焦げている。高温の炎が土の壁を焼いているのだ。そして、オブは土の壁を修復していない。それどころか、彼女は土の壁が焼けて、少しずつ削られていることも知らない。
そして、先に魔法が尽きたのは、ラピスの白い炎の柱だった。いや、ラピスは意図的に先に魔法が切れるようにしていたというべきだろう。しかし、オブはそこから出てくる気配がなかった。ラピスの狙いは防御している土の壁の中から出てきたところを攻撃するということだった。すぐには出てこなくとも、防御の中から出てくるときは隙が出来ると予想していたのだ。
白い炎の魔法が無くなったからと言って、土の壁の中の熱がすぐに冷めるわけではなかった。密閉空間で熱された魔気はそう簡単には冷えない。そして、外の様子がわからない彼女は魔法を解除するという選択肢はない。彼女はまだ外で魔法が使われていると思っているのだから、解除すればあの白い球の魔法の効果を受けるのだから、解除するはずがないのだ。だが、彼女もその熱の中にいるのも限界だった。彼女は地面側の土の壁に小さな空気穴をいくつか開けた。そこから熱された魔気が外へと流れていく。中の熱が冷めていく。そこでようやく彼女は壁の向こうではすでに魔法がないかもしれないと思った。そして、彼女は徐々に土の壁を崩していく。土の壁のせいで、外のどこにラピスがいるのかわからない状況だ。慎重にもなるだろう。いくら慎重になっても、ここから出るときに攻撃されることは確実だ。相手の場所も予測できないのだから、完全にその攻撃を防ぐことは出来ないだろう。だが、彼女には超能力がある。土の壁を消しながら、自身を包むように巨大な手を構えている。
土の壁が消失していくのを見て、ようやくオブが出てくるのだと、ラピスは再び魔法を構える。彼女の周りには風が吹いていた。そして、その風が彼女の周りで集まっていく。それは薄緑の風の球になっていく。その様子はオブには見えてないどんな魔法が来るのかは見えていない。そして、もちろんラピスはオブが何の対策もせずに出てくるとは思っていない。土の壁が消失して、オブの体が見えたところで、ラピスの風の球が彼女に向かって移動を始めた。オブはその魔法に気が付いていない。まだ熱の中にいたときの後遺症とでもいおうか。彼女の視界がはっきりとしていないのだ。まだ、視界の一部がかすんでいるのだ。彼女に向けて飛んでいく薄緑の球を彼女は認識できていない。しかし、その緑の球は彼女が超能力で出している手にぶつかった。