叩き起こしてやる 3
「扉の前で話さないで、中に入ってください。ラピス、扉を開けてもらえますか」
「……」
ラピスは何も言わない。サクラにもオブにも視線を合わせず、俯いたままだ。
「ラピス。扉を開けてくれ」
「……嫌です。ずっと、二人きりが良いんです」
その言葉は小声であったが、周りが静かな分、その言葉はサクラにもオブにも聞こえていた。しかし、サクラはその言葉の意味を理解していない。その言葉を聞いても反応することが出来ない。しかし、オブにはある程度、理解できた。サクラと関わる人は大抵の人が彼女と同じように思うだろう。彼女は確かに魅力的だからだ。オブも最初に会って、一緒に食事をとったり、仕事をしたりするたびに、彼女の魅力が見えてきていた。だが、それに従うだけではサクラの為にはならないだろうと、わかっていたから、オブは自制できていたのだ。しかし、自身の感情を認識してあまり時間が経っていないラピスはそれを自制する術を持っていない。子供が欲望のままに行動するのと似たようなものだ。独り占めと言うと言い方は悪いが、結局のところ、好きな人とずっと一緒にいられたらという、純粋な好意の先にできてしまったものだろう。オブはそこまで理解しているわけではないが、サクラが外に出さないというのは間違っていると思った。そして、サクラ自身はそれを正すことはないだろう。彼女は好意を理解しているかも怪しい。あくまで、彼女から向けられているのが友人として好きだと思われているだけだと考えているのかもしれない。どこかずれた彼女なら、そう思って当然なのだろう。だから、悪者になっても彼女を正してやれるのは自分だけだとオブは思った。
「ラピス。ここらで終わりにしようぜ。独り占めの時間は終わりだ」
「貴女が、貴女が来なければ、ずっと一緒にいられるはずですよね……」
「そんなわけない。だが、それで納得できるなら、オレと戦ってみるか?」
「そうですね。貴女を排除して、彼女の一生を支えていきます。それが私、ラピスラズリが自分で見つけた使命です」
サクラは二人の言っていることは理解できなかったが、険悪な雰囲気が二人の間にあり、自分と中のいい二人を止めようと近づいた。
「サクラ、大丈夫だ。これからするのは、ただの喧嘩だからな」
「け、喧嘩は駄目です。仲良くしましょう?」
オブは彼女に笑いかける。近くにいれば頭に手を乗せただろうが、今は扉の奥にいて手が届かない。だから、笑いかけるしかないのだ。
「サクラ。待っていてください。私が貴女と一緒にいるために、勝ってきますから」
ラピスが今まで見たこともないほど、戦うことにやる気を出している。そこまでやる気な理由はわからないが、二人が何か譲れないものを掛けていることはわかったため、それ以上は何も言えなかった。
最初はオブとラピスだけで戦う予定だったのだが、サクラとヘマタイトもついてきていた。二人が本当に真剣に戦ったときには、どちらも最後には動けなくなり、誰も助けられないなんてことになれば、町の外の魔獣に襲われて死んでしまうだろう。だから、そうならないようにヘマタイトが付いて行くと言ったのをきっかけに、それならとサクラも付いてきたのだった。ラピスはサクラを外に出したくはなかったのだが、彼女が外に出たいというのならそれに従うしかなかったのだ。
四人は町を出て、町から正門から延びているあぜ道を歩く。町の近くでは森に囲まれている道だが、そのまま進んでいくと森が無くなり、草原になっていた。森よりも広い場所で戦うにはいい場所だろう。ラピスはずっとオブに敵意を向けていて、いつでも戦闘できるような体勢になっている。彼女の手にはみずがめ座のマークが描かれた鍵があった。鍵の束から彼女が変身するのに必要な鍵を既に取ったのだ。今、鍵の束はサクラの手にある。現状、ラピス、オブ、ヘマタイトの手にはそれぞれが変身するための鍵を所持している。それ以外の鍵は全て、サクラの手にあるというわけだ。オブもラピスも、他の鍵を使うことは出来ない。つまりは武器は使えないということになる。
道から離れ、辺り一面草原の場所に移動する。周りには何もおらず、戦うのには絶好の場所だろう。
「じゃあ、始めようぜ。どっちかが戦えなくなったら終わりだ。死なな程度に戦ってやるから、死ぬんじゃねぇぞ」
「いわれなくても殺したりはしませんよ。サクラが悲しみますから。でも、これ以上何も言えないくらいには戦います。もし、手加減なんて甘いことを考えているのでしたら、やめた方がいいですよ」
ラピスはオブの挑発に乗ってしまっていた。反対にオブは彼女の言葉には勝気な笑みを還すだけだった。そして、二人は胸に持っている鍵を差した。
「チェンジ! ミラクルガール! コール アクアリウス!」
「チェンジ! ミラクルガール! コール カプリコーン!」