稼がなければ
それ以降、彼女が危険な目に遭うこともなく、生活していた。たまに、ラピスと一緒に出掛けたり、ウェットブルーやシックファッションに行ったりした。さすがにリキュアライフに一人で出入りする勇気はなく、未だにあの居酒屋には行っていない。ウェットブルーのマスターとは普通に話す程度の仲になり、買い出し中のマスターに声を掛けられることもあるほどだ。それからシックファッションの店主も彼女の部屋まで訪ねてきた。目的は、最後の一着を届けることだ。代金を支払い、私服も三着になった。その際に服の洗濯方法も教えてもらった。洗濯は水と風を組み合わせた魔法で行う。大きな水球を作り出し、その中に洗濯ものを入れる。それから風の魔法でぐるぐると中を回すという魔法だ。洗濯機を思い出すような方法で少し驚いたが、水の魔気には綺麗にする作用があるらしく、水の魔気と振れる回数や面積が多いほど綺麗になるため、風の魔法で流れを生み出してより綺麗にするらしい。一回でこの魔法を成功する人は少ないが、サクラは簡単にやってのけた。簡単でない理由としては一度に二つの魔気を制御しなくてはいけないかららしい。
様々なことがあったが、彼女はこの町で最低限、生活できる知識を教えてもらっていた。買い物もできるようになった。未だにもらった報酬は尽きることはないが、いつかはそれもなくなるだろう。無限ではないことを思うと、何か職業に就いた方が良いだろう。そうなれば、異世界らしい職業の方が良いと考えていた。そして、街中で見た中で、その理想に近いものは彼女の頭の中にあった。それは冒険者だ。
サクラは一人で冒険者ギルドがある場所まで来た。冒険者ギルドもレンガでできているようだ。見た目はあまり大きくはない。中に入ると、様々な人がその中にいた。内装はほとんど石でできているようだった。その空間には六人掛けの椅子が二組に、受付と書かれたカウンターの前に長椅子がいくつか並んでいるだけだ。そして、入って右側に紙が沢山貼られた掲示板があった。掲示板の上の部分には、依頼書掲示板と書かれていた。そこにこのギルドの依頼が貼られているようだった。
サクラがギルドに入ると、様々な視線が彼女に突き刺さる。彼女は見た目は可愛い子供なのだ。そして、冒険者ギルドと言うのは子供のくる場所ではない。迷子かもしれないと思うのが普通だろう。
「どした。迷子か? 家まで送ってくか?」
革製の防具を着けた若め男性が彼女に声をかけた。しかし、サクラは迷子ではない。彼女は声をかけてきた男性に視線を合わせた。
「ここで働くにはどうしたらいいんですか? それと、見た目だけで判断するのは早計ですよ」
「いやいや、どう見ても子供じゃん。まぁ、いいや。冒険者になるんだったら試験があるからな。何も出来なければ、落ちるだけだ。ちなみに、受付に行けば、試験を受けられるからな。まぁ、健闘を祈ってるよ」
彼はそこまで言い終わるとにやにやと笑っていた。子供が試験を突破できるわけがないとわかりながら、健闘を祈るとか言っているのだ。しかし、サクラは大して気にしていない。そのまま、受付にいった。彼女にとって、少し高いカウンターに両手を乗せて、受付に声をかけた。
受付にいた人は耳の尖った女性だった。人間とは思えないほどの美貌を持っている。白い肌に、綺麗な緑色の髪が垂れ下がっている。その瞳は澄んだ薄緑色だ。彼女が声をかけるとその冷たさすら孕む視線がサクラに向けられた。
「冒険者になりたい、ですか。……いいでしょう。では、少々お待ちください」
彼女はそれだけ言うと、奥に引っ込んでしまった。それから、本当に少々待つと、再び彼女が出てきた。
「試験は戦闘しか行えません。他の試験官をできるレベルの冒険者が折りませんので。それでもよろしければ、すぐにでも用意しますが、いかがなさいますか?」
サクラは考える間もなく、二つ返事で了承した。
それから、彼女が連れてこられたのは、四方を壁で隔てられた空間だ。先ほどのギルドと同じくらいの大きさしかないように思える。先ほどは戦闘の試験だと言っていたので、ここで戦闘か、その技術を見るのだと思ったのだが、戦闘するのであれば、フィールドが狭いと感じてしまう。
「こちらが試験官のメイトさんです。彼との戦闘を行い、あなたの力量を計ります」
先ほどの受付の人が紹介した人は黒い髪に黒い目を持った日本人に見える男性だった。黒髪と言うのは元の世界では目立たないが、この世界だと案外目立つ。この世界では黒と言うのは中々いないのだ。街の中でも見ないほどだ。彼女がそんなことを考えていると、男性はよろしくとだけ言って、壁際に移動した。それが開始場所なのだと思い、彼女も反対方向の同じ位置に着いた。
初めての対人戦に不安を抱きながら、彼女の戦闘は開始しようとしていた。




