夜に輝く紫の星 7
左右それぞれで指を組み、単純な力比べだ。彼女の手も超能力で見えないが、その手は確実に相手の蔦で太くなっている剛腕と組み合っている。
「君ならそうしてくれると思ったんだ。君の手は二本しかない。対して、私に沢山の手の代わりになる髪があるんだよ」
スコルピオはそう言いながら、伸びきっている蔦のような髪を持ち上げる。髪がまるで触手のように彼女に延びていく。
オブはそれを視界に収めながらも、その髪に抵抗する方法を考えていた。相手の手を掴んでいる手を離せば、離した方の手が彼女を襲うだろう。そうすると、手は離せない。足は相手の押す力に抵抗するために、踏ん張る場所が必要だ。片足では相手の力には抵抗できない。やはり、体は使うことは出来ない。残るは、魔法だ。しかし、彼女は戦闘で魔法を使うことに関してはあまり経験がない。生活の中で必要最低限の魔法を使うことがほとんどで、冒険者として活動している間は大抵は彼女の持つ腕力と超能力で魔獣や盗賊を倒してきたのだ。だから、魔法を使う経験は彼女のほどの冒険者の中ではかなり少ない方だろうしかし、今の彼女はミラクルガール。そして、その衣装で戦っている他の友達を知っている。その戦い方はもちろん、覚えている。彼女は単純な火の玉が相手に向かって飛んでいくのをイメージした。それはすぐに現実になり、火の玉が彼女の周りに出現した。火の玉はすぐに移動を開始して、スコルピオの本体を狙った。だが、火の玉は彼女の髪によって弾かれる。髪が火の玉を弾くと、音もなく火の球は消失した。魔法の扱いに慣れていないせいで、簡単に防がれてしまう。
「悪あがきかい? 冒険者らしいね」
相手の髪が既に、オブの周りに来ていた。彼女は辺りを見ていたのだが、それを回避する方法が思い浮かばない。彼女は火の球の魔法が効かなかったため、自身の周りに風が吹き荒れるのをイメージした。それは風の膜であり、自身を守ることを想定して出した者だったのだが、その威力の調整などできるはずもなく、その場に激しい風が吹き荒れる。オブの衣装についているリボンやスリットの入ったスカート部分もバタバタと激しく動いていた。彼女自身もその風に飛ばされないようにするための負担がかかる。それだけの風が吹いているため、スコルピオの髪も彼女に近づくことは出来ずに、風の吹く方向に髪が持っていかれている。攻撃こそ受けていないが、結局は彼女に負担がかかっているのは事実だった。
彼女の風の魔法を見たせいか、スコルピオは髪をオブに伸ばすのを止めたようだ。だが、攻撃を諦めたわけではない。依然として、二人は両手で押しあっているのだ。
スコルピオの周りに水の玉が出現した。スコルピオは魔気を体内に留めて置ける量を上昇させる薬の効果はまだ残っているのだ。そして、水の玉はオブに向けて発射される。彼女はその量に抵抗できるほどの対策をとっさに思いつくことは出来ず、ほどんどの水の玉が彼女にぶつかっていく。最初こそ、その足で後ろに倒れることも、下がることもなく耐えていたが、いくらオブと言えど続けて攻撃を受ければ、耐えきることは出来なくなる。そして、ついに彼女は攻撃に耐えられなくなり、後ろに倒れそうになる。足を動かして、自身の体重を支えようとしたが、足を地面から離した途端に、彼女手にさらに押される力が加わった。足が着く前に体が傾いて、後ろに転んでしまった。その拍子に超能力が解除されて、相手の腕が解放される。スコルピオはオブが転んだことと、自身の腕が解放されたことで、その剛腕で追撃を掛けようと、手を丸くして拳を彼女に向かって伸ばしていく。
オブはしりもちをついたところで後ろに手を付いてすぐに立ち上がろうとした。しかし、そうしようにも相手の水の玉がまだ彼女に向かって飛んできている。彼女は超能力を使って、手で自身の前に見えない巨大な手を出ん現させた。水の玉を防ぎながら彼女は立ち上がる。しかし、立ち上がると同時に既に、スコルピオが近くにいるのがようやく視界に入る。相手の拳が迫ってきている。もう、力比べと言っている場合ではない。スコルピオは力比べなんてする気はないのだと、相手の攻撃で気づいた。今更ながらに、相手が真正面から戦うつもりはないと理解したのだ。
スコルピオの水の玉は終わったが、彼女の拳が近くに来ていた。それを彼女は超能力で相手の腕の横に手を添えて、それを真横に押した。相手の正面からの力を受け流して、彼女はスコルピオに近づいた。彼女は超能力を使ったまま、受け流した手とは反対の手に自身の手と重ねるように超能力を使う。その状態で、彼女はスコルピオ本体を殴りつけた。