夜に輝く紫の星 4
男が放った爆発が起こり、そのまま火が男の正面に延びて、ヘマタイトが炎に包まれる。最初こそ、外側から彼女の輪郭が見て取れたが、その熱を大きさが大きくなると同時に、徐々にその姿もか掻き消えた。
「俺の全力の魔法だ。死ななくてもダメージにはなるだろ……」
男の声は誰にも聞こえていないだろう。炎の中のいる彼女にも聞こえていないはずだ。そして、魔法にはしてはかなり長い間、彼の魔法は持続していた。どれだけの魔気をそこに込めたのか、彼の魔法の熱は周りにある建物も焦がしている。煤がついて、建物の一部が解けて変質している。持続する時間が長いほど、その熱が強まり、赤色だった爆発は白へと変化する。周りに放出している熱が空気の流れを生み出して、彼のマントもバタバタとはためいている。彼の顔は苦しいものになっていた。魔法を使おうとすると、体内の魔気を使うことになる。体内の魔気が無くなると死に至る。これだけの魔法を使い、体内の魔気を消費し続ければ、体に多大な負担がかかるのは当たり前のことだ。彼は魔法を維持できなくなって、炎は尾を引いて消滅した。
「さ、さすがに驚きました。服も黒くなってしまいました。まさか、こんな魔法を使って来るとはおもいませんでした」
ヘマタイトの衣装の大部分が焦げている。しかし、彼女が一度衣装をはたくと叩いた部分から黒い粉が落ちて、その部分が少しだけ綺麗になる。実際には彼女の衣装にもほとんど焼けていないということだ。そして、それはヘマタイトには衣装以上にダメージが入っていないということだ。だから、彼女は服が焦げたことに驚いているのだ。
「はは、不意打ちだったはずだが。これでも届かないのか。だが……」
彼はもはや倒れる寸前だった。しかし、彼の手にはナイフが握られていた。その先端を彼女の腹に向けて突き刺そうとしていた。ヘマタイトは相手が腕を動かしたところでようやく、彼の動きに気が付いた。自身の格好を見ている場合ではない。ナイフの先端が彼女の腹に迫る。彼女は相手の手の軌道に合わせて土の壁を作り出した。相手のナイフをその壁で抑えて、相手の足元を突き上げた。体勢を低くしていた彼は足元の動きに対応できなかった。既に体力も魔気も体には残っていない。体勢を整えて、反撃に映るだけの戦闘能力ももはやないのだ。ヘマタイトは、バランスを取れない彼の足元から柱を出現させた。彼はそれに抵抗することもできずに、少しだけ宙に浮いた。彼女はその様子を見て、彼には抵抗する様子が見られなかった。それは当然のことで、全てを出し切った彼に残っている体力もなく、彼は少しの衝撃だけで気絶していたのだ。彼は地面に落ちても、起きる気配がない。無抵抗の相手を攻撃するなんてことはする気はなく、二人の戦闘に決着がついていた。
ヘマタイトたちが戦っている間、その横ではオブとスコルピオも戦っていた。その場には既にパイシスはいなくなっていた。オブが拳を相手に向けていた。
「簡単に倒れてくれるなよっ!」
彼女は拳を後ろに引いて、それを再び前に突き出した。その瞬間に彼女の超能力が発動して、スコルピオはそれを回避することは出来ずに、後ろにふっとばされた。それでも足を地面に付けて体勢を低くして衝撃を殺す。それでも彼女から受けた一撃はかなり重たいものだ。変身前に戦った時とは全く違う。変身することでそれだけの力を持ったというわけだ。威力だけではなく、攻撃範囲も上がっている。今までは、蹴ったり殴ったりすると、彼女の手足がそのままの大きさでの攻撃だった。しかし、変身した今の攻撃は少なくともスコルピオの前面を全て殴りつけるような衝撃があったのだ。だからこそ、彼女はその場で耐えることが出来ずに、足を浮かされて、後ろにふっとばされたのだ。しかし、スコルピオもふっとばされただけでは終わらない。彼女は服の中に手を入れて、薬を取り出そうとしていた。思った以上に薬を消費している。薬はあるが、もうほとんど残っていない。彼女が自身にしか使えない回復薬を抜くともう、彼女に効果のありそうな薬はないのだ。彼女の魔気が回復している以上、効果の弱い薬は全く気なないだろうし、既に強力な薬は使ってしまっている。そもそも、普段でも強力な薬は持ち歩いていない。強力であればあるほど、作る手間がかかったり、精製の難易度が高かったりするのだ。だからこそ、大量に持ち歩くことはできなかった。その持ち歩いている薬ももうない。結局、彼女はオブに薬を使うことは出来ないだろうと悟った。
オブに使うための薬はない。つまりは、自身の強化のための薬はまだ大量にあるのだ。彼女はその内の二種類の薬を自身の体に注射した。