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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
36 モノクロの希望
202/266

夜に輝く紫の星 1

 オブの体は光を纏う。その光が全身を包み込み、部位ごとに光が解けていく。


 彼女の足にはあまり高さの無い下駄を履いていて、鼻緒は紫色だ。手には彼女の肌色が透けるほど薄い、薄紫色の布でできた手袋を着けている。その手袋にも下駄にも装飾はない。彼女の体を包んでいるのは紫色の着物のような衣装で、見た目には足も隠れるような丈の物だが、側面には膝より少しだけ高い位置からスリットが入っていて、動きやすいようになっている。袖の部分は中にものが入れられるような膨らみがあり、着物には控えめに花柄があしらわれている。襟の部分は桜色で縁取りされていた。そして、肩の辺りには目立たないようなデザインで、雲を貫いている角が描かれていた。腰を一周しているリボンがあるのは、他のミラクルガールと同じだ。彼女のリボンの色は紫色だ。


 変身が終わると、彼女の周りにあった光は全てなくなっていた。そして、そこにはしっかりと立っているオブがいた。彼女は自身の格好をくまなく見ている。しかし、傷は全快と言うわけではなく、体のところどころから痛みを感じる。それでも、それは行動に支障が出るほどでもないかった。


「オレのは、なんか、サクラとはちょっと違くねぇか? まぁ、いいか。スコルピオ、こっからだぜ。前に戦った時も今回もぼろ負けしちまったが、これで三戦目。お互いボロボロだ。少し気に食わねぇが、これで決着にしようぜ」


 スコルピオにはまだ回復薬もある。そのため、ハンデを背負っているのはオブの方だろう。しかし、ミラクルガールの力も間近で見ている彼女はその力になれるのも早いだろう。そのハンデも物ともしないかもしれない。何にしても、彼女はここで決着を着けようとしている。それはもはや、スコルピオが逃げようとも追いかけて、決着を着けることすら考えている。


 スコルピオは彼女との戦闘はそこまで長くはない。しかし、それでも彼女の気質を理解するのに、そんなに時間は必要ないだろう。こうと言ったら他に何をしようと言っても聞き入れなさそうな頑固さ。彼女は決着を着けようというのなら、ここで決着がつくのだ。それはきっと、自分が負ける可能性も考えている。それもそれで決着だ。どちらにしても、これっきり。彼女と戦うことはこれ以降は絶対にないということだ。口論くらいはあるだろうが、真剣勝負なんてことはこれ以降は絶対にないのは理解できる。それを理解しているからこそ、彼女は断るとか承諾するとかなどは考えていなかった。彼女の返事は肯定する以外にはないのだから。


「わかったよ。これで最後。恨みっこなしの真剣勝負」


 それを見たパイシスは二人の間にわって入るなんて無粋なことはせずに、また監視に戻る。しかし、今度は例えオブが負けそうでも彼女を守ったり、手を貸したりするなんてことは一切することはないだろう。そんなことをする奴は無粋と言うより

人間失格だろう。彼はそういったことは全くしなかったから、その二人が少しだけ羨ましいとも感じていた。




 ミラクルガールになったオブとスコルピオが戦闘しようとしているときに、ヘマタイトとマントの男の戦闘は継続していた。


「くそ、なぜだ。俺の攻撃なんて届かないってことか。これでも、この町の冒険者のトップだったんだ。今のトップには届かないってことか」


 顔に疲れが出ているマントの男は悪態をつきながら、彼女との戦闘を続けている。それも作業のような物だった。それでも徐々に押されているのは彼も理解している。相手の魔法の効果が高いというのもあるが、扱いが上手いというのもある。彼は魔法主体で戦う戦闘スタイルではないが、トップ冒険者だった過去もあり、魔法や剣術などの技術には体験を含めた知識と少なくない経験があるのだ。そして、ここまで戦って、彼は彼女に勝てないこ戸を理解していた。それでも、先ほどまでは二対一に戻れば勝機もあると、頑張っていたのだが、もはや、その可能性も少なくなっている。まさか、彼女もミラクルガールになるとは思わなかった。そもそも、彼は一対一で戦うのは苦手だ。魔獣や盗賊相手にならいくらでも立ち回りを考えることはできるだろう。しかし、トップ冒険者ともなれば話は変わる。そもそも彼は隠密状態で、ターゲットから見つからずに殺すという暗殺が得意なのだ。それがこんなバレバレの一対一では勝てるはずがない。自身が一番苦手な距離にもうすぐ相手が到達する。もはや、抵抗するのも億劫になってくる。降参して、負けた方が楽だろう。だが、彼は抵抗を止めることはなかった。彼を動かしているのは、彼に力を与えてくれたボスへの感謝だ。ミラクルガールを倒せる可能性があるのなら、もし倒したとすればボスが願いを叶える道が楽になるのだ。力が届かなくとも、彼は抵抗し続ける。

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