モノクロの希望 2
ヘマタイトは、敵の二人が持つ雰囲気が変わったのを察した。それを理解した瞬間に、相手の矢が彼女の顔目掛けて飛んでくる。単純に飛んでくる矢を彼女は小さく壁を作り防御する。そのまま壁を消そうとしたのだが、何か予感がしたため、その場に壁を残しておくと、そこに何かがすぐに着弾して、壁が壊れた。見た目には矢が一本飛んできていただけだが、その後ろにもうもう一本の矢が飛んできていたのだ。その矢を防いだ彼女はどちらかを先に倒そうと考えた。まずは、マントの男を倒すために走り出した。近づけば、スコルピオよりも倒しやすそうだと考えたからだ。スコルピオには自身を回復する手段があるのは確認しているのだ。回復手段がなさそうな、マントの男を先に倒そうと考えた。
ヘマタイトが自分の方に近づいてくるのを見た彼は、矢を連射する。その素早い射撃は様々な所に飛んでいく。彼女を逃がさないように、彼女の左右に矢を射る。さらに彼女の進路に矢を飛ばしていく。それでも壁を作り出す程度のことは走りながらでもできることだ。彼女は飛んでくる矢を全て防ぐ。正面だけでなく、彼女の左右から抜けた矢は彼女の背後から近づいてくる。それも彼女は防ぎきる。ようやく、男に手が届こうというところで、男は後ろに飛んだ。ヘマタイトは彼をそう易々と逃がすはずはなく、彼の後ろに壁を作り出した。男はそれを読んでいたかのように、自身の勢いを利用して、壁に足を付く。そのまま作られた壁の上の辺の部分に手を掛けて、作った壁に登り、壁を越えようとしていた。相手が壁に手を掛けた時点で、彼女は壁を解除した。乗り越えようとしたところで壁が消失した彼は落下し始めたが、そこまで高い場所ではないため、綺麗に着地する。しゃがん体勢のまま、彼は一度だけ矢を放つ。矢の周りにはいつ作ったのか、五つの薄緑の楕円形の球が彼女に向かって飛んでいく。球体は風の魔法で作られたもので、彼は目くらましくらいにはなるだろうと放ったものだった。彼の予想では矢と魔法を壁を作って防ぐと予想した。今までヘマタイトは回避するよりも壁で受けるというスタイルだったからだ。だから、彼は攻撃は全て壁を使って確実に防ぐと思い込んでしまったのだ。
ヘマタイトはその予想とは違い、矢も魔法も全て横にずれて回避する。その状態から、足元に土の柱を出現させて彼との距離を一気に詰めたのだ。彼は弓で戦うために彼女と距離を離そうとしていたため、彼女の動きは完全に予想外の動きで、彼女と距離を離すどころか、もはや正面に来るまでの時間など無かった。
「ふっ」
男はマントの下に幾つも忍ばせていたナイフを彼女に向かって投げた。手を離れた瞬間には綺麗に投げられてはいないはずだったが、彼の超能力によって、そのナイフは安定して真っ直ぐに彼女に向かっていく。彼女に当たる寸前で、彼女の作った壁を避けるように横にずれて彼女に傷をつけようとしたのだが、作った壁を延長させて、ナイフを防いだ。ヘマタイトと男の距離が近いせいで、矢を番えて狙って放つ時間が無くなったため、いくつもあるナイフを投げる戦法に変えたが、彼はナイフを綺麗に投げる技術は持っていない。しかし、彼の超能力である自身が射撃した物の軌道を自在に操ることが出来るという能力があるため、その技術は必要ない。彼が持っている射撃の技術は弓だけだ。彼はヘマタイトが近づいてくるのにナイフを投げまくる。投射した数が多ければ多いほど、その超能力で制御することが難しくなるのは当然のことだが、彼はそれをこなしている。真っ直ぐに投げたナイフの軌道を操り、相手に回避や防御を差せ続ける。相手を動かし続けることで、接近戦と言うほどの距離にはまだ到達していない。
ヘマタイトはどうにか前に進む方法を考えていた。壁を作らなければ、確実に相手の攻撃に当たってしまう。そして、壁を作っている以上、他の魔法の操作は難しい。ナイフが一、二本であれば、それを防ぐための壁と並行して他の魔法も使えるだろうが、防がなくてはいけないナイフの量が純情ではないのだ。並行して魔法を使うことが出来ない。つまりは、現状遠距離の攻撃手段がない。そこで、彼女はラピスたちの戦いを思い出していた。ミラクルガールが胸に鍵を差して武器を召喚していたのを思い出していた。鍵の束は腰のリボンに括り付けていた。その鍵の束を取り出したが、どれが武器になるのかはわからない。鍵の頭に何も描かれていないものは武器として使えないのかもしれないと予想は出来るが、鍵の頭に何が書いてあるのかもわからないし、そのマークがわかったところでどんな武器が出現するのかわからない。それでも迷っている時間はなく、彼女は鍵の束から一本だけ鍵を取る。そして、それを胸に差した瞬間に、鍵が光り輝く。その光のせいで彼女の動きが鈍った。その間に鍵の束がナイフによって弾かれ、それは地面にシャランと言う音を立てて、地面に落ちた。彼女はそれを取りに行くような隙を見つけることは出来ず、放置するしかなかった。そして、光輝いていた鍵が何かの形を取っていた。




