闇の中で光る者 6
ヘマタイトにスコルピオの二体の分体が襲い掛かる。その手にはやはり、注射器が握られている。分体の動きはオリジナルよりも素早い。ヘマタイトはその二体を撃退するような魔法を使うようなことはなく、相手が持つ注射器が彼女の肌に突き刺そうとしたのだが、その針がヘマタイトの肌に突き刺さることはなかった。彼女はミラクルガールになったことで、魔気の操作をより緻密に操ることが出来るようになっていた。つまりは、前より魔法を上手に使うことが出来るようになったと皇都である。そして、彼女は相手の注射器の先端が刺さる前に、自身の体と針の間に薄い土の壁を作ったのだ。土の壁の色は黒であり、その壁は注射器の針程度では壊すことは出来ない。
そして、彼女は近くにいる分体の足に土を絡ませる。足を取られては、すぐには動けない。分体は素早い代わりにパワーはオリジナルには劣る。そのため、すぐにはその拘束からは脱出できない。ヘマタイトは、分体二体に向けて、土の塊をぶつける。その数は一つや二つではない。土砂崩れのような勢いで、いくつもの土の塊、いや、それはもはや岩と言える硬さを持っているだろう。その塊に威力に分体を拘束していた土の拘束が崩れ去る。拘束から脱出できても、動くことは出来ない。全身に食らった岩の塊の衝撃が分体の体に深刻なダメージを与えたのだ。分体に追い打ちをかけるように、さらに大きな土の塊を作り出して、倒れている分体にそれをぶつけようとしたのだが、その岩が地面にぶつかる前に、分体はそこにいなくなっている。スコルピオが分体を回収したのだ。
「ミラクルガール。本当に面倒くさい相手。このタイミングで、四人目のミラクルガールが出てくるなんて、思っていなかったからね。まさか、いきなり変身するとは思わないし。なんというか、イライラしてくるね。私が負ける未来が決まっていた、なんて。そんなの、私がどれだけ策を立てても意味がないってことなのかな。運命なんて物があるなんて、信じられないんだけどね」
ヘマタイトはその言葉を聞いていた。確かに、このピンチで鍵が目の前に出現して、変身できた。自分に都合のいいようなことが起きている。なにより、その返信するための鍵はラピスたち以外は持っていなかったはずだ。つまりは、彼女たちが力を貸してくれたのかもしれない。ヘマタイトは今は、深いことを考えることはないと考えていた。それよりも目の前の敵を倒さなくてはいけないのだ。
「こ、降参してくれませんか」
ヘマタイトはその提案をした瞬間に、彼女の背中に衝撃があった。少しだけ前のめりになり、彼女は後ろを振り返る。そこには弓を構えた男がいた。男のマントが揺らめいている。明かりがないせいで、男の顔もその服装の色もわからないが、ヘマタイトに矢を飛ばしてきていたのが、彼だろうと理解した。
「俺の矢を防ぐほどの奴がいるとは思わなかったが、ミラクルガールだったとはな。しかし、お前の色は見たことない。白黒のミラクルガールなんていつ出てきたんだか」
マントの男は低い声でそう言った。その言葉をきかずともわかるが、彼もゾディアックシグナルメンバーか、少なくともスコルピオの仲間だということはわかる。二対一だが、ヘマタイトは負ける気はなかった。それは油断しているというわけではない。確かに、ミラクルガールになったために、万能感がある。しかし、彼女の臆病かつ引っ込み事案な彼女の性格が、その万能感に飲まれることなく、勝つ方法を考え続けている。たとえ、二対一になったとしても負ける気はないというのは、勝つ方法を考え続けるということであり、既に勝った気になって油断しているというわけではないのだ。
「今だよ、四人目のミラクルガールが誕生したのは。私の目の前で、どこからともなく鍵の束が出現したんだ」
「なるほどな。つまりは、こいつらは監視されてたんだ。何もないところから何かできる奴なんて、ジェミニくらいだからな。今もどうせ近くにいる。俺らからは干渉することは出来ないがな」
「そうか。そう言うことか。つまりは、彼女がミラクルガールになれるかは彼も掛けだったということなのかな。それとも、何か法則があって、確信してた? どちらにせよ、二対一。数的には有利だが、勝てる未来は見えないね」
「おいおい。そんな頼りないこと言うなよ。まぁ、俺にも勝つ未来は見えないが。それでも最後まで足掻くのが冒険者だからな」
マントの男は、弓に矢を番い、ヘマタイトを後ろから狙う。正面にはスコルピオが無手で構えを取っている。格闘術を使うようには見えないが、その構えだからと言って、格闘術を使うとは限らない。ヘマタイトもさらに覚悟を決める。死ぬ気も負ける気もないが、適当に戦って勝てる相手ではないということは簡単にわかっているのだ。




