闇の中で光る者 5
サクラたちから鍵を受け取ってどれだけ、どれだけ移動しただろう。メイトは、急いで移動し続けていた。それでも時間がかかってしまうのはそれだけ距離が離れているからだ。そして、そろそろオブたちが戦っている場所につく頃だった。遠くから見えたのは土の柱と無数と言っていいほどの土の塊。その中心にいたのはきっとスコルピオだろう。既にヘマタイトもスコルピオと戦っていることがわかる様子だ。しかし、既に全力で走っている彼はそれ以上素早く射移動することが出来ない。超能力を遣えば、一直線に素早く移動できるが、相手にばれる可能生の方が高いと考えて使っていない。
彼が現場につく頃には、戦闘の音があまりしなくなっていた。オブたちの様子を見ると、既にオブは戦闘出来なさそうなほどボロボロで、ヘマタイトも地面に倒れてしまっている。すぐに鍵を届けなくてはいけない。そう思い彼はすぐにヘマタイトのの前に鍵を落とした。そして、そこにいる全ての人からは見えないように、スコルピオを遠ざけるようにコピー空間から手を伸ばして、スコルピオを後ろに引っ張った。
ヘマタイトは目の前に出現した鍵を不審に思ったが、今は怪しい壺でも手を伸ばしてしまうほどの危機だった。その鍵にどんな意味があるかはわからないが、彼女は震える手で鍵の束に触れる。その瞬間、彼女の頭にその鍵の使い方と、煌びやかな衣装を身に纏った女性が戦っている姿が思い浮かぶ。その間には思考の自由はなかった。それでも、その鍵が勝利へ導いてくれる物だという確信は生まれていた。
ヘマタイトは目の前に置かれた鍵の全てを握り、震える足で立ち上がる。足に激痛が走るが、彼女はそれでも立ち上がる。矢を抜くでもなく、土の魔法で柱を作り、彼女はそこに手をかけて立ち上がる。いくつかある鍵の中から一つの鍵を取り出し、掲げる。
「チェ、チェンジッ ミラクルガール! コール リブラ」
掲げた鍵を自身の胸に突き刺して、右に捻る。鍵の頭にはてんびん座のマークがついていた。そして、鍵は彼女の体に取り込まれるように消えて、光が彼女の体を包み込む。彼女の体に突き刺さっていた矢は、その光に包まれたときに光の外に排出された。光は、彼女の四肢に移動していく。
足を包む光は、ヒールへと変化する。左右で色が違い、右が白で左が黒だ。それぞれのヒールには細いリボンが付いていて、それが足の甲で結ばれていた。リボンの色はそれぞれのヒールと反対の色。手に集まった光は彼女の手首の辺りまで包み、それが無くなると、手袋がはめられていた。ヒールと同じく、右が白で左が黒の物で、手首の辺りには、手袋とは反対の色のリボンが結ばれている。体を包んでいる光は彼女の体に沿うように纏われ、その光はスカートのある服のシルエットになり、光が無くなると服が露わになる。モノクロのドレスのような物だが、スカート部分は膝上の辺りまで、黒いスカートでスカートの裾はフリルで装飾されている。そのスカートを包むように薄くて白い布が左右に分かれてスカートに沿って垂れていた。上半身を包むのは、モノクロのチェック柄の服で、腹部には金色のボタンが二つ付いている。袖の無い服だが、肩の辺りから、奥の透ける白い布が優しくかけられている。胸の辺りにはデフォルメした岩のマークがついている。腰の周りには、白黒の大きなリボンが胴の周りを回っている。腰の辺りでリボン結びされていて、余った部分は後ろに流れていた。ヘマタイトの長い髪を止める髪留めには白い丸の飾りと、四角い黒の飾りがついている。
ミラクルガールに変身すると、彼女はその場に降り立つ。彼女を包んでいた光が彼女の周りでキラキラとしてどこかへ消えた。
「こ、これは、ラピスさんと同じ力?」
今の今までボロボロだった体力も、体の痛みも感じない。そして、色や形は違えど、煌びやかな衣装はミラクルガールと呼ばれている三人と似たような雰囲気を感じる。白と黒と言うシンプルなデザインを彼女は一目で気に入った。
「これなら、て、敵も倒せるんでしょうか」
変身したところで性格まで変わるわけではない。強い力ではあるが、今の彼女はその力の使い方を教えてくれるものはいない。しかし、彼女はミラクルガールの戦いを知覚で見ていたのだ。そして、二度も救われた。その力があるのなら、オブを救いたいと思う。彼女はいつも以上に、体内の魔気の量が上昇しているのを感じていた。超能力を使う体力も無尽蔵と思えるほどだ。
「まさか、あんたもミラクルガールだったとはね。これは全力で潰させてもらうよ。ボスのためにね」
スコルピオの目の色が変わる。それまでの余裕を見せることはなく、分体を二体出して、ヘマタイトに襲い掛かる。




