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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
35 闇の中で光る者
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闇の中で光る者 2

 茶色の小さな球は飛んでくる矢を一つ一つ吸収していく。矢はその小さな球から逃げようとするような軌道に変化しているが、それでも逃げ切ることが出来ない。飛んでくる矢は徐々に少なくなっていく。それもそのはずで、その小さな球は吸収し続けることで、大きくなっていくのだ。ヘマタイトが今までもその魔法を使わなかったのは、負担が大きいというのもあるが、森の中に比べて町の中は土の魔気が薄いのだ。基本的に人が多い場所は魔法使いの戦闘には向かない。沢山の人が魔気を消費するということはそれだけ魔気が薄くなるということだ。生活する程度であれば、その場所から完全に魔気が無くなるなんてことはないが、魔法使いのように強力な魔法を使うとなると、人が密集していない場所の方が魔法を使いやすいというのは、魔法使いにとっては当たり前のことだ。さらにブラウンサクションと言う魔法はその性質上、町の物を吸収してしまうのだ。だから、使いたくはなかった。だが、自分とオブが負けて、死んでしまうことに比べれば、再生できる町を多少破壊してでも、生き延びることを選択したのだ。


「オブっ!」


 遠距離攻撃は全て魔法に任せて、彼女は路地を曲がり、オブの方へと移動しようとした。そこには、注射器を差されそうになっているオブがいた。彼女には抵抗する様子はない。いや、抵抗しようにも既に力を使い果たしているという印象だ。スコルピオと言う強い相手に、手加減なしで限界まで戦ったのだろう。既に腕も足も動かないのかもしれない。


 ヘマタイトの声がスコルピオたちに届いてしまった。オブは視線を彼女に向けた。同時にスコルピオも同じような動作をした。その瞬間、オブは声を出そうとした。しかし、それより先にスコルピオが持っていた注射器をヘマタイトに向けて投げていた。その先端はぶれることなく、ヘマタイトの方へと飛んでいく。真っ直ぐに進む注射器は彼女の肌に突き刺さる。


「っ!」


 注射器の中身が勝手に相手の体に入るということはないが、それでも突き刺さった勢いがついて、ほんの少しだけ、彼女の体内に四本目の橙色の薬が注入されていた。彼女はすぐに注射を抜いて地面に落とした。注射された部分が圧迫され続けているような痛みがあった。体内に入った薬が少量と言うせいか、あまり酷い痛みでもない。


「投げて刺すだけじゃ、あまり意味はないかな。どう? 痛みでも感じる?」


「す、少しだけ……」


「そうか。全部入ると痛いみたいなんだけど、少しだけだとその程度ってわけか。これはまだまだ改良できるみたいだね。……全く、人一人も引き留められないのか」


「や、やっぱり、あの矢は、あなたの仲間、なんですか」


「そうだよ。遠距離なら私たちの中で一番の実力があったんじゃないかな。私は居場所を知ってるけど、君たちには教えてあげない。仲間の居場所を教える奴はいないからね。わかってるとは思うけど」


「そ、そうですか。では、オブさんの代わり、に私があなたと戦い、ます」


「そうか。彼女より君の方が弱そうだけど、それで私に勝つってこと?」


「いえ、オブ、さんが復活するまでの間、私が持たせます。私の役目は、それですから」


「あくまで時間稼ぎ? それを敵に教えちゃっていいのかな」


「構いません。どうせ、私は隠し通すことなんてできませんから」


「ネガティブだね。そんな君にはこの薬はどうだろう」


 それは一瞬だった。ヘマタイトはスコルピオが動いたことに気が付いたのは、彼女が正面で止まってからだった。そして、相手の手の中にあった注射器は彼女の腹に突き刺さっている。中身は既に注入された後だというのが注射器の中身が体と言うことで気がついたが、それに気が付いたところで対処は出来ない。


「えっ、あ、く、ぅぅ」


 体の中で何かが暴れている。脳が体に暴れるように命令している。これまで生きてきて、体験した最悪だったこと、恨んだ相手、悲しかったことなど、マイナスの記憶が呼び起こされる。それだけが、呼び起こされている。寒くて、寒くて、寒くて。数えたくない程の年月を引きこもりとして過ごしていた孤独が呼び起こされる。父も母も死んでしまい、毒族からは嫌われる。多種族との子供など、許されない時代のこと。なぜ、なぜ、なぜ。そんな悲しく子供のような疑問を考え続けていた子供時代が蘇る。


「なんで、なんで。私は、ずっと、一人……」


「あれ、なぜ落ち込んでる? もっと熱く、怒りと恨みを燃やすはずなのに」


 ヘマタイトは蘇る記憶に意識が混濁していた。自分の自我のような物が、自身の心と記憶の中を揺蕩う。見えるものは恨みと言うよりかは、悲しみなのだ。彼女の人生は、ほとんどが悲しみでできてしまっていた。悲しみはスコルピオの打った薬の燃料にはなれない。薬の作用は、怒りや恨みの記憶を大量に呼び出して怒りと恨みを噴出させるという物だが、臆病な彼女には、相手を恨む勇気もないのだ。だから、薬が燃料にできるものがないのだ。

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