光の裏に潜むもの 4
オブの超能力を使用して、細い道の角から奇襲をかけようとした。しかし、その攻撃が当たることがなかった。相手はその攻撃に当たる前に攻撃に気が付いて、オブの拳を回避した。そして、相手に視線は明らかに彼女たちに気が付いていた。
「そんなところに隠れてないで、出てきなよ」
そう言われては隠れ続けるわけにはいかないと、オブだけは道の角から姿を現した。ヘマタイトは細い道と言うこともあり、相手に姿を見せることは出来なかった。
「へぇ、君はこういう奇襲なんて卑怯なことはしないと思ったんだけど。私の思い違いだったかな」
「あんたがつえぇってのを知ってんだ。奇襲でもしないと勝てないからな」
オブは怒りを抑えて、相手の軽口に軽口で返す。彼女の言っていることは事実であることは自分でもわかっている。しかし、軽口を叩くことで冷静さを保っているともいえる。相手の言葉に怒鳴らずに帰している内は感情的になっているわけではないと考えていた。
「ん? そうか。君も成長しているというわけか。前会った時は肩に力が入って、悪は許さないみたいな雰囲気だったのに。今は卑怯なこともできる。少しは柔軟性を持ったってことかな」
「分析、ご苦労さん。一回、死にかけたからな。おかげで、体の調子が良いんだ」
「治癒師の力、か。なるほど、それで調子がいい、と。……それだけで、私に勝てるって思った?」
「そんなわけねぇよ。だから、奇襲でもしねぇと糧ねぇと思ったんだ。さっきも行っただろ? 頭よさそうなのに、覚えてねぇのか」
馬鹿にしあっているが、お互いに口論でも口を閉ざそうとはしない。どちらも怒鳴ったり、喚いたりせずに、静かに喧嘩をしていた。オブがそう言った喧嘩をするのは珍しいとヘマタイトは思った。彼女の戦闘は魔獣との戦闘しか見たことないため、比べることは出来ないが、彼女はこういうように相手との対話を行うタイプには見えなかったのだ。先手必勝。相手の防御すら突破するような攻撃をするような印象があった。
「君はパートナーを変えたのか? 今ではミラクルガールと言う名前が広まっているようだね。桃色の髪の少女とは一緒じゃないの」
「ああ、あいつは引きこもりになっちまったからな」
「へぇ、あの子がねぇ。そんなに弱い子だったかい?」
「事情は知らねぇよ。ただ、あいつはちゃんと立ち直るさ」
「そうか、信頼、しているわけだ」
「そうだな。そうなる。そう言えば、あんたの名前、聞いてねぇな」
「東方では、名乗るときはまず自分から問う言葉あるみたいだけど?」
「ああ、そうかい。オレはオブシディアン・グラントだ」
「私はスコルピオ。……これで満足かい?」
「ああ、気兼ねなくぶっ飛ばしてやれるぜ」
スコルピオは余裕そうな態度を崩さない。オブは長い会話を経て、ようやく相手を倒そうと、気合が体に溢れていた。会話をしている間に、体内の魔気をある程度操作して、体のウォーミングアップを終わらせていたのだ。
「サクラ、まだいるんだろ」
メイトはようやくサクラの部屋の前に到着していた。扉を軽く叩き、扉越しに彼女に声を変えけている。他の部屋の迷惑にはならないように、音も声も控えめだ。
「こんな時間に来ないでください」
扉の向こう側から聞こえる声が、サクラの物ではなくラピスのものだった。つまりは、サクラはまだ会話もできる状態ではないのかもしれない。
「すまない。今、オブシディアンが、鍵もなしでゾディアックシグナルと戦おうとしている。だから、せめて、全ての鍵を貸してほしい」
「……」
メイトは多分まだ、ラピスが扉の向こう側にいるだろうと思った。サクラにとってのオブがどれだけ大切な人なのかを理解しているのだろう。しかし、サクラを戦わせたくはない。だから、鍵を渡すだけで、いいのならそうしたい。力にはなりたいが、サクラには戦わせたくはない。
「わかりました。少し待っていてください」
扉の奥から、誰かが話している声が聞こえた。おそらく、サクラとラピスの物なのだろう。そして、その声が扉に近づいてくる。そして、扉が少しだけ開いた。その隙間から、鍵が差し出された。空白の鍵が三本と、アクアリウスとヴァルゴを覗いた全ての鍵だ。メイトは本当なら、おとめ座とみずがめ座も欲しかったのだが、さすがに彼女たちが変身できなくなるため、それも欲しいとは言えなかった。
「あの、メイトさん。頑張ってください。私は、まだ、戦えませんから」
弱弱しい声。本当にサクラかと疑うほどのテンションの低さ。しかし、メイトは彼女がまだ、人と話せることに安心もしていた。ラピスも一緒にいるだろうし、案外時間もかからずに立ち直って復活するだろうと思った。
「ありがとう。二人とも。必ず、この鍵は返すから」
メイトはそれだけ言って、再び超能力を使ってオブたちがいるはずの場所を目指して走り出した。




