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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
34 光の裏に潜むもの
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光の裏に潜むもの 3

 オブとヘマタイトを監視しているメイトとカイトは、屋根の上から彼女たちを監視している。そして、彼女たちがその依頼を受ける前から、メイトとカイトはこの事件について調べていたのだ。相手は確実にゾディアックシグナルのメンバーであるスコルピオ。彼女が調合した薬の入った注射器でその薬品を体に注入されると、何もする気が起きなくなり、廃人のようになってしまうのだ。その現場を彼らは目撃している。サクラたちが行動できる状態なら彼女たちがスコルピオに出会うように仕向けることも考えていたのだが、あの状態では戦えないだろうと断念していた。




 オブが月明かりも届いていない暗い路地を覗くと、人影があった。男性のようにみえるが、何か様子がおかしい。千鳥足と言うか、足に力が入らないような歩き方で、ついには膝を付いて倒れた。オブがその様子を見ていて、すぐに駆け寄る。ヘマタイトはその後ろに付いて行くだけだ。


「おい、どうした。何があった」


 オブはそう訊いたが、返事は返って来ない。彼女は倒れている相手の上半身だけを持ち上げると、男性の顔が自身の顔に近づく。そのお陰で、男性の顔が見えるようになったのだが、その顔は廃人のそれだった。瞳に力は無く、口の端からは唾液が垂れ落ちそうだ。呼吸しているのかも怪しいほど、浅い呼吸。そして、手はだらりと地面に垂れたままだ。自身の服が汚れているのも気にならないようだ。男性をそのままにすることは出来ないが、近くに犯人がいるのは間違いない。彼女が男性にごめんなと謝って再び地面に寝かせた。瞬きしない瞳を閉じさせる。遠目に見れば死んでいるように見えるが、彼は息もしている。


「ヘマタイト。わりぃ、逃げるのはなしだ。ぶった押してやろうぜ」


 オブもこの町を好いている。町をめちゃくちゃにされるのは我慢ならないのだ。実際に、被害に遭っている人を見ると我慢なんてできるはずもなく、彼女は戦うを決意する。負けるつもりは毛頭ない。




 ついに彼女が被害者を見つけてしまった。ギルドでの評判を聞く限り、オブは感情的になりやすい。被害者を見つけた彼女がその犯人を見ても我慢して、絶対に倒せるように準備してから戦うという選択をするとは思えなかった。


「メイト。無理やりでもサクラさんたちを呼んだ方が良いじゃない?」


「いや、多分戦えない。引きこもって何をしているのか知らないが、ラピスの態度を見る限りじゃ、どこに引っ張り出しても何もできないはずだ」


「……せめて、鍵を貰ってこよう。空白の鍵だけじゃない。既に封印しているのもね。あの二人が適合者である可能性もある。特にヘマタイトはいきなり現れた優秀な冒険者なんだ。条件はサクラと同じだから」


「だが、監視はどうする。見つけられて、戦闘して一瞬で殺されましたじゃ、意味がない」


「そのときは、僕が守るよ。僕が死ぬ前に来てくれれば大丈夫だから」


「……わかった。じゃ、取ってくるからな」


 メイトは納得いってなさそうな顔をしていたが、カイトの提案があながち、間違いでもないと思っていた。ミラクルガールは最初にミラクルガールになったサクラと関係の深いものがなっている。オブもヘマタイトもサクラとは縁がある。ヘマタイトはサクラやラピスに助けられている。オブはサクラと姉妹のような関係を作っている。ならば、ミラクルガールになる可能性は高いのではないだろうか。そう考えてしまう。メイトはその場を離れて、自分の超能力を使い、サクラたちの部屋を目指す。




 オブたちは路地の中を歩いていた。角を曲がるときにはその先を確認してから先に進んでいる。この町の大きな通りは簡単な作りなっているせいか、路地の中は変形している交差点が沢山あり、複雑に曲がっている場所がある。町の中心部の路地ならば、複雑にはなっていないのだが、そこから離れるほどにまるで迷路のようになっているのだ。


「止まれ」


 複雑な道と言うほどでもない場所で、角を曲がった先に何かいるのを発見した。その見た目に既視感がある。それもそのはずだ。一度見て忘れるはずもない。蔦のような髪が伸びているのだ。微かに届く月明かりが、その影を色づける。緑色だ。あの日逃がしたその風貌そのままだ。服装も髪型も変わっていない。オブは先ほどの男性を思い出す。最初に戦った時の被害者を思い出す。しかし、怒りすぎてはいけない。冷静さを欠いてしまってはすぐに負けてしまう。感情で力を振るい続ければ簡単に負ける相手だ。ましてや相手は分裂できる超能力を持っている。さらに、毒を含んだ薬を注入してくるのだ。強化しているのは自分だけではないと考えると、相手の毒も、鬼の自分にも効く物になっているかもしれない。前よりも注射器に注意して戦わないといけないだろう。


「こういう卑怯な手は使いたくねぇんだがな」


 彼女は拳を握りしめ、超能力を使った。

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