光の裏に潜むもの 1
ライフリキュアでの夕食を終えた翌日、ヘマタイトがギルドに来ると、いつも以上にギルド内が騒がしかった。彼女は辺りを見回していると、ギルド内にはオブもいるようだった。彼女は掲示板の前に立ち、そこに貼ってある依頼書とにらめっこしているようだ。ヘマタイトは、彼女がそんなに悩んでいる様子が珍しくて、彼女に近寄っていく。
「あ、あの、オブさん。どうかしたんですか?」
「ん? あぁ、よう。いや、魔獣討伐ではねぇんだが。んー、これを見てくれ。他の冒険者もこの依頼を受けてるみたいなんだが、うまくいかねぇみてぇだ。だから、オレが受けようかと思ってなぁ」
彼女が自身が強いことを自覚している。それでもその力を周りに誇示しようとは思っていないが、それでも依頼を受けるとなると、そこに設定されている難易度は気にしているのだ。実力のあるものが簡単な依頼ばかりを受けていると、実力のない者たちが依頼を受けることが出来ない。それは実力がない者たちが稼げないというだけでなく、その冒険者たちから成長の機会すら奪うことになるし、冒険者と言う職業に携わる人が少なくなっていくだろう。オブはそこまで深いことを考えているわけではないが、自分の実力にあった依頼を受けるのが筋だと思っているだけだった。
だからこそ、彼女が今受けようか迷っている依頼は今のところの難易度は彼女の実力の少し下程度。彼女がその依頼を受けるかどうかは迷いどころだ。そして、このまま依頼が達成されないままだと、この依頼の難易度は上昇していき、結局はオブやヘマタイトが受けることになるというのは簡単に予想できた。
「あ、あの、私と二人で、受けませんか」
オブはそう言われた瞬間は目を丸くしていた。それは彼女から依頼を一緒にしようなんてことは言われたことは無いからだ。彼女は自分から誘うことはしないだろうと思っていたのだから、その言葉に驚いてしまったのだ。だが、その表情はすぐに代わり、彼女は豪快に笑って、その依頼書を剥がした。彼女は自分の迷いより、彼女が誘ってくれたことが、圧倒的に嬉しかったのだ。だから、彼女の中で既に依頼を受けないという選択肢はなくなったのだ。
受付にその依頼書を提出して、その依頼を受けることにした。ヘマタイトは、その依頼内容を全く聞かずに一緒に受けると言ってしまった。依頼の受付をしてしまったため、話を聞いた後に止めますとは言いにくい。だが、依頼内容も知らなければ、何をしていいのかわからないため、結局はオブに聞くことにした。
「あぁ、わりぃ。説明もしてなかったか。前から掲示板に貼ってあったんだが、町の人がいきなり無気力になってしまう。その原因の調査だ。とはいっても、この依頼を受けた奴は原因がわからないか、無気力になってしまうかのどっちかって感じらしいからな。オレも気をつけろと言われた」
そんな依頼を受けていたとは知らず、ヘマタイトは依頼を手伝うことを止めようかとも思った。自分が無気力になるというのが怖いのだ。こうして、町に出ずに引きこもっていた時も無気力で過ごしていたため、またあの時のように何も知らずに引きこもりに戻ることが嫌だった。彼女はそれを思い出すと、その無気力になっている人がいるのだが理解する。それは更に嫌だ。その人たちも外に引っ張り出して、他の人と関わってほしい。それにもし、無気力にしている人がいるなら、その人物をどうにかしないといけない。
「どうした?」
「あ、いえ、やりましょう、この依頼、解決しましょう」
彼女がそこまで気合の入ったことを言うのは珍しい。いつもはオブの後ろについてきて、自分の言うことに従うことがほとんどで、意見を言うこときもおどおどして、自分に確認するかのように訊いてくるような言い方ばかりだった。その彼女が依頼を受けたいと言い、この依頼をどうにかしようと言っているのだ。彼女が積極的に関わろうととしている理由はわからなくても、彼女のやる気は感じる。オブはいつも以上に自身に張り切っていた。
町に出て、無気力になる症状について調べる。町を行く人にその症状について訊いて回ると、何人かから話を聞くことが出来た。無気力になってしまった人は家に引きこもっているようだ。無気力になってしまった人から話を聞きたかったが、それは難しいらしい。家をノックしても返事をせずに、一緒に住んでいる人が話しかけても、ゾンビのように短く唸って返事をするだけらしい。その話を聞くと親しくもない彼女たちでは顔を見ることも、声を聞くこともできないだろうと思った。
話を聞いて回っている内に、オブは少し前のことを思いだしていた。その時はサクラと一緒だったはずだ。夜、路地の近くの人通りのないところで注射器で薬を人に打ち個でいる蔦のような髪を持った女性がいたのだ。あれ以来、夜中に出歩いていないというのもあるが、その人物に出会ったことはない。前まえはサクラたちが町を歩いていて、それが犯罪の抑止力になっていたのは事実だ。この無気力になる症状が出てきたのも、サクラたちが町に出てこなくなってから。もしかすると、あの時の女性が元凶かもしれない。だとすると、ミラクルガールのような力がないと勝てないかもしれない。やはり、サクラたちが必要なのだろうか。




