暴れる光で照らして 3
しばらく森の中を歩いていると、草木が倒れている広場を見つけた。そこには何もいないようだった。二人はすぐにはその広場に移動しようとはせず、しばらくその場所を観察していた。魔獣が暴れた場所であれば、付近にその魔獣がいる可能性があった。魔獣でなく、単純な獣の場合はそこを巣にしている可能性がある。町の人に害のない獣であれば、討伐する必要はないのだが、害のある生物だった場合は先に討伐するのもありだと考えていた。しかし、しばらく待ってもそこには何も出てこなかった。それを確認すると、彼女たちは広場に入っていく。何かの罠である可能性も忘れてはいけない。
「何もなさそうだな。ヘマタイト、警戒を続けてくれ」
「は、はい。了解です」
ヘマタイトはノームと言う土の魔気を司ると言われていた精霊の血を引いている。ノームには土の魔気を通して、ある程度周りの状況が理解できるという力を持っていた。その力を使って、辺りに何か近づいてこないかを感じているのだ。オブが広場を調査している間、ヘマタイトは辺りの警戒を続けていた。
「オブさん。何か来ます。速い。もしかすると討伐対象かもしれません」
彼女が言葉を言い終わる前に、接近してきた板何かが姿を現した。
二人の目の前にいるのは真っ赤なトンボだ。明らかに、オブよりも大きい。翅を羽ばたかせているせいで辺りに風が吹いている。広場で倒れている草木がその風に煽られて広場の中を流れていく。巨大なトンボは複眼で彼らを見ているようだった。ヘマタイトはその見た目に嫌悪感を覚えるが、戦わないわけにはいかない。それに虫型の魔獣と戦ったことがないわけではない。進んで戦いたい相手ではないが、仕事なれば仕方ないのだ。彼女たちからちらちらと見えている尻尾は板が繋がっているような見た目だ。翅は不規則な線が模様のようになっている。本当に見た目は巨大なトンボなのだ。見た目が気持ち悪いだけで、毒針も見えない。体躯に合わない小さな足に見えるのが、毒針と言うわけでもないだろう。しかし、すぐにその毒針の場所が分かった。尻尾の板が一部が開き、そこから毒針が発射された。
「あぶなっ!」
「あっ」
二人に向かって飛んできた日本の毒針を回避した。その毒針は細いが、その長さは人の指くらいの長さだ。
「ひえぇぇ」
ヘマタイトの口から気が抜けるような音が出る。その声が出るのも仕方ないかもしれない。その毒針は地面に落ちていた草を巻き込んで、地面に突き刺さっていた。そして、巻き込まれた草は毒針の周りだけがボロボロになっていた。それが自分の体のどこかに刺さり同じことになるかもしれないと思うと怖い。
「ぼうっとするなっ!」
トンボは次の毒針を発射しようとしていた。しかし、一度攻撃を見た後だとそれに対処するのは難しくはなかった。彼女は毒針の軌道に合わせて、灰色の土の壁を作り出した。毒針は壁こそ貫通したが、その壁に捕まるようにして、そこで止まった。彼女が壁を解除すると、毒針が地面に落ちた。防御できることが確認できれば、それで十分だ。二人で戦うときは、物理攻撃が効かないとなるまで、攻撃するのはオブなのだ。
「こいつを食らえっ!」
オブの超能力、距離を無視して格闘攻撃を当てることが出来るという力を使い、トンボの正面から拳を前に出す。トンボの顔面にその攻撃が加わるが、トンボの首が気持ち悪いほど、グリンと動いて衝撃を受け流したように見えた。しっかり固定されていないように見える首が、彼女の攻撃の衝撃を受け流したのだ。しかし、それで攻撃を止めるわけにはいかない。次に蹴りを出したが、首が盗れるのではないかと思えるほど、曲がったのだが、それでもダメージがあるようには見えなかった。踵落としも同様の効果だ。
「あ? んだよ、こいつ。ヘマタイト、魔法を使ってくれ」
そう言われた彼女は、トンボの下の地面から土の柱を突き出した。しかし、その柱がトンボに当たる寸前、一瞬で横に平行移動して、彼女の柱を回避した。
「は、速い……。でも」
一本出た柱から、枝分かれするようにいくつもの柱が生えていく。その柱たちは相手に向かっていないものもある。しかし、それはあえてそうしているのだ。回避する通路を塞ぐために四方八方に柱を伸ばす魔法なのだ。そして、逃げ道を潰した後にトンボに向かって、柱を真上から伸ばし始めた。その瞬間、トンボが勢いよく前進して、全ての柱をぶっ壊して、包囲網から脱出した。羽ばたく音が聞こえてくるほど、激しく羽ばたいており、さらに風が強く吹いている。草木が揺れて、地面に落ちていた草が、舞い上がる。その中には毒針も入っていて、オブは毒針に当たりそうになるのをギリギリ回避した。
「連携しろってことかよ」
オブの口角が上がるのを、ヘマタイトは見逃さなかった。




