暴れる光で照らして 2
オブとヘマタイトは時折、一緒に仕事に当たることがあった。森の奥の魔獣が森の浅い場所に出てきてしまったために討伐をするとかそう言った強い冒険者でないとできないとこなせないような仕事を二人で遂行しているというわけだ。そして、オブが前衛で戦い、ヘマタイトが後衛で魔法を使い続ける。その連携はずっと一緒に戦ってきたかのような連携らしい。実際に戦っている姿を見た人はそう多くはない。戦闘に巻き込まれないように逃げるのが、冒険者でなくとも常識だ。
そして、オブがギルドでヘマタイトに声を掛けたのはそれが理由だった。二人が活躍する前までは、ミラクルガールたちがこなしていた依頼である強力な魔獣討伐は全て二人が請け負い、全てを成功させている。今日もその強力な魔獣を倒しに行く依頼を、ヘマタイトに見せていた。彼女はそれを受け取って、依頼書に目を通していた。
「どうだ。今日はきついなら明日でもいいんだが」
「い、いえ。大丈夫ですよ。まだ、外も明るいですし……」
依頼書をオブに返した。視線は下に向いたままだが、彼女はその依頼を受ける気にはなっているのだ。オブと一緒であれば心強い。どんな魔獣でも負ける気はしない。そして、彼女と一緒ならラピスの強さに近づけるかもしれない。今はまだ、あの人ほど強くはないが、いつかは彼女たちと肩を並べられるほどに強くなりたいとも思っている。今までは、そう思っても行動にまでは移さなかった彼女だが、今は仕事もしている。彼女に自覚はないが、引きこもっていた時よりも成長しているのは間違いなかった。
だが、町を歩いていても全く彼女たちに出会うことがないのが寂しかった。オブは彼女たちが住んでいる場所を知っているようだが、今はいかない方が良いと言われてやめたのだ。
オブがサクラの部屋に行ったときに出てきたのはラピスだった。その時、久しぶりに彼女の顔を見たのだが、別人かと思うほど暗い雰囲気を持っていた。
――しばらくは来ないでください。彼女に、サクラに無理をさせたくないのです。
ラピスにそう言われては、それ以上はずかずかと部屋に入るわけにもいかない。自分が入ることでサクラが無理をするような状況なのは気になるが、それ以上は聞けなかった。余りにも暗い雰囲気で、気軽に聞いてもいいものなのかと迷ってしまった。その間に、サクラの部屋の扉は閉ざされ、それ以上は何もできずにオブは彼女の部屋の前から去ったのだった。それ以来、彼女たちが心配ではあるが、サクラならいつか必ず立ち直って出てくるだろうと思っていた。あの眩しいまでの希望を持った少女がずっと落ち込んでいられるはずがない。オブはそう考えていた。
オブが依頼書を受付に提出して、二人は森の中に来ていた。今回の討伐対象の魔獣はクリムゾンフライと言う魔獣だ。フライと氏名ている通り、空を飛ぶタイプの魔獣。依頼書によると、トンボと言う虫に似た姿をしているが、人の二倍ほど大きさであるようだ。そして、その尻尾には毒針が沢山ついており、その毒針にだけは刺さらないようにするべきだと記されていた。依頼書に書かれている姿から受ける印象は大きなトンボと言うだけで、見た目には危険で強い魔獣には見えなかった。
「こ、こんな魔獣。私たちじゃなくても、倒せそう、ですけど」
「いや、あんま油断すんな。依頼書に書かれていることが全てじゃねぇんだ。それに書かれていること以外のことが起こっても、慌てずにな」
オブは新剣な瞳でヘマタイトに注意する。それが経験値の差と言うものだろうか。ヘマタイトは言われた通り、気を引き締める。彼女も依頼書に書かれたことが全てではないという体験をしたことを思いだした。強い魔獣ではなかったため、苦戦することなく勝つことが出来たが、今回はそう言うわけにはいかないかもしれない。そう思うと、気が引き締まる以上に緊張してしまう。だが、いざと言うときに動けなくて、オブに迷惑をかけるわけにはいかないと覚悟を決めた。
森の浅いところを歩いているだけで何度か魔獣との戦闘が起こる。ヘマタイトが魔法を使う前に、オブが決着を付けていて、魔法を使うタイミングがない。
「あんたは、討伐対象が出てくるまで温存だな」
そう言いながら、少しだけ乱暴にヘマタイトの頭を撫でた。それが照れくさくて、ヘマタイトは頭を逸らす。オブにはそれに反応して、移動した頭に再び手を乗せて、今度は優しく撫でた。
「や、やめてください。頭、撫でないで……」
その反応を見て、オブは満足したのか、頭をポンと一度軽く叩くと、手を離したのだった。




