心を遣う 5
フローの剣が振り下ろされていた。しかし、その剣は地面に当たっただけで、その途中でオフィウクスに当たった形跡は全くなかった。それどころか、彼は回し蹴りを放ち、サクラとフローに攻撃しようとしていた。彼の足元にはやぎ座のマークが出現していた。その蹴りは鋭く、先にフローのところに来たが、彼女は後ろに翼と地面を蹴った勢いで飛び退く。サクラには翼がない。そのため、相手の蹴りを見てからでの回避では間に合わかった。彼女は後ろにしりもちをつくように動いてしまった。その回避でも彼の蹴りを躱すことは出来たが、次の攻撃が既に彼女に差し迫っていた。真正面からの蹴りが飛んできている。彼女は手を斜めに交差させて、手で罰を作った。オフィウクスはあまりにも粗末な防御を見てもなお、思い切り蹴りをかました。しかし、彼の蹴りがサクラに到達する前に彼の足元が揺れる。地面が形を変え続けて波打った。サクラは未だに防御するような体勢を取っていた。
「間に合いました……」
サクラの後ろにラピスがいた。目の前で繰り広げられていた戦いの中に入ることが出来なかったが、観察し続けていたことでサクラを守ることができたのだ。土の壁や相手の攻撃を抑えるような防御方法では効果がないと考え、彼女は足元の方を揺らしたのだ。いきなり、揺れた地面に対応するのは難しく、オフィウクスもその揺れにバランスを崩したのだ。そして、彼女はサクラに駆け寄り、オフィウクスから 距離を離した。
「仲間思いですね。美しい、まさしく純粋で綺麗な欲です。こうして戦っていますが、やはり、こう思わずにはいられない。私の仲間になってほしい、と」
「そ、それは無理な話です。はぁ、あなたがこの町の人に危害を加えるなら、仲間になんか、なりませんよ」
サクラは自身に迫っていた死という恐怖が自身の心臓を締めあげていたのを自覚する。それから解放された今になって、呼吸が荒くなっていた。しかし、意地でも彼の信念による行動を認めるわけにはいかないため、彼の言葉には抵抗する。彼の行動にも抵抗する。ラピスもそれは同じ気持ちだ。町に人との交流で、自分にもいないと寂しくなる人が何人かいる。その人達が殺されたり、この町を追い出されるかもしないなんて、許せるはずがない。
「わかっていますよ。これは勧誘ではありません。ただの感想ですから。まぁ、あわよくば、君たちが感傷的にでもなってくれれば良いと思っただけです」
彼は話しながら、理性の働いていないフローの相手をしている。彼女一人でも全く持って歯が立っていない。彼女の全ての攻撃は彼に届く前に、いきおいが 完全に消えている。
「それにしても、そこの二人とは違い、貴方は弱いのですね。ミラクルガールだというのに、彼女たちと協力もせずに、我を忘れています。その弱さで、ミラクルガールを名乗るとは、君だけは二人の足元にも及ばないですね」
彼がその言葉を言い終わった瞬間、フローは自身の想いをそのまま言葉に出されて、怒りを抑えられなくなる。彼女は翼を広げて、先ほどよりも感情に任せて、前に出る。しかし、彼女の攻撃は彼を捕らえることはなかった。それは、オフィウクスが強かったからではない。オフィウクスは既に攻撃されているのだ。彼の首からは血が少量流れ出している。その首にあてがわれているのは鎌。そして、彼の両肩は刃に貫かれていた。それは二つに分離しているハサミだ。
「「訂正してください」」
その言葉には、怒り以外の感情が含まれていなかった。先ほどまでの町の人のためになんて想いはそこにはない。オフィウクスは回避できなかった。見えてすらいなかった。確かにフローに意識を裂いていたのは事実だ。しかし、それでも彼女たちの動きは認識は出来ていた。だからこそ、対処できていたのだ。しかし、今の攻撃は全く反応できなかった。認識も間に合っていない。肩の痛みと、首の熱が今更になりやってくる。体の認識すら遅れてくる。いや、彼自身が状況を認識したから、体がそれに反応しているだけだ。
「訂正? キミたちはまさか、怒っているのか? こんな天使のために?」
「それ以上、口を開かないでください。あなたはそう言うことを言わないと思っていたのに」
「フローを貶すというのなら、この首を切り落とします」
その言葉に冗談は含まれていない。だが、オフィウクスは口角を上げて、口を開いた。
「確かに馬鹿にするのは良くありませんでしたね。しかし、事実でしょう?」
その言葉が言い終わるか終わらないかと言うところで、サクラが突き刺していたハサミを振りぬいて、彼の腕を切り落とした。そして、ラピスが鎌を思い切り引いて、彼の首を取った。首は血を溢れさせながら一瞬だけ跳ね、地面へと落ちた。




