心を遣う 4
サクラは、フローがおかしくなってから動けなかったが、彼女が二回目に吹っ飛ばされたところで、現実に意識が戻ってきた。フローがオフィウクスに突っ込んでいくのが目に入る。このまま彼女だけに戦闘を任せることは出来ない。彼女だけに戦わせ続けると、すぐにでも殺されそうだと思った。今の彼女は周りが見えてないような様子なのだから、自分がどれだけの傷を受けたかも自覚していないだろう。その前にこの戦闘をどうにかして終わらせるか、フローを落ち着かせるかしないといけない。後者の場合は、オフィウクスがその間に待つようにしなくてはいけないが、それは難しそうだった。どちらにしろ、オフィウクスを倒すか、撤退させないと、フローを落ち着かせることもできないだろう。
サクラはフローが飛んできているのに合わせて、オフィウクスに突っ込んでいく。脚力は既に上限を上げているため、その限界まで力をだして、地面を蹴った。地面に敷き詰められている道が彼女の蹴りにより、えぐり取られる。いくつかは地面の上に落ちる。彼女の脚力のせいで、砕けたレンガも地面に転がった。サクラは一瞬でオフィウクスに近付くことに成功した。オフィウクスはまだ、彼女の方を見ていない。意識に入っている様子もない。サクラは躊躇うことなく、拳を突き出そうとした。その時、彼女の目の前にひつじ座のマークが出現した。彼女は既にパンチを出そうとしているため、その行動を止めることは出来ない。彼女の腕が伸びて、相手に近づいていくと、その腕をもこもことした何かが彼女の拳から肘の辺りまで飲み込んだ。その中は痛いとか、熱いということはなく、単純にもこもことした感触を感じるだけだ。だが、拳は彼まで伸びる前に止められた。それ以上に拳を前に出そうとしても、前には出ない。拳を引こうとも、そのもこもこは彼女の手を包んだままだ。その状態で拳をぶつけても大した衝撃にはならないだろう。もこもこが彼女の拳の勢いを消してしまう。そのもこもこが邪魔な彼女は火の魔法を使ってもこもこを焼くといともたやすく燃えた。ひつじ座のマークは既に消失している。しかし、出そうと思えば、すぐにでも出せるだろうというのは簡単に予想がついた。
サクラは戦う前にオフィウクスが言っていたことを考える。力を託すと言っていたところを見ると、星座の力のことだろう。星座と言えば、十二個ある。つまりは、十二個の超能力があると考えるのが妥当だろう。彼が超能力を使って、どの攻撃をしてくるかは、マークが見ることが出来れば、どんな攻撃かはわかるだろう。そのためには、一度その星座の力を使わせなくてはいけないというのが、難しいところかもしれない。もし、ミラクルガールの力をもってしても、一撃で倒されるというような超能力があった場合はどうすることもできないということになる。防御や回避ができるなら、対処は出来るかもしんない。しかし、それも無効だった場合は、試すなんてことは出来ない。とにかく、ひつじ座・おうし座・てんびん座の力がどういう者かは見ることが出来た。その三つだけなら対処することもできるだろう。しかし、それ以外の能力は未知数だ。それでも、今は攻撃してフローと戦わせないようにしなくてはいけない。
彼女は相手がどんな行動をするのかわからないため、魔法を使うことにした。もこもこは火でどうにかできることはわかっていた。彼女は再び拳を突き出した。フローはオフィウクスに剣を叩きつけようとしている。フローの前にはてんびん座のマークが出現していて、サクラの前にはひつじ座のマークが出現している。フローの攻撃は完全に無効化されている。サクラの手ももこもこに覆われている。オフィウクスは、サクラをちらっと見て、フローに視線を戻す。今、より脅威なのはどちらか判断したのだろう。フローを吹っ飛ばして、次にサクラに対処する。しかし、サクラの方がフローより先に動き出す。彼女の拳の周りから火が噴き出したのだ。彼女の腕が小さく爆発するように火が飛び散り、その次には彼女が握った拳の先からバーナーのように火が噴き出した。彼の横腹を焼くように噴き出したそれは更に伸びて彼の身を焼こうとしていた。だが、それがそこまで届くことはなかった。てんびん座のマークがサクラの方へと移動しているのだ。サクラには自身が起こした火でそれが見えていなかったのだ。しかし、てんびん座のマークが彼女の前に移動しているということは、フローの前にあったてんびん座のマークはなくなっているということだった。フローは失っていた勢いを取り戻して、剣を振り下ろした。




