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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
32 心を遣う
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心を遣う 3

「やはり、逃がしてくれましたね。リブラは既に私の言うことを聞いてはくれないでしょうから。助かりました」


 彼は嫌味とかではなく、純粋に二人を逃がしたかったようだ。その声にも表情にも、安堵が含まれていて、本当に二人を巻き込みたくなったように見えた。サクラはその表面に見えるものを信用してしまっているが、ラピスはいよいよ彼の素性が怪しく感じてきた。


 サクラとラピスが二人を守っている間に、フローは既に火炎放射の範囲から抜け出していた。そもそも、その火の魔法の範囲の一番外側にいたのがフローだ。さらに

サクラとラピスより後ろにいたため、その火が届く前にその軌道から逃げることが出来た。そして、彼女は超能力を使い、半液体の鎧を身に纏っていた。その手には剣と盾を持っている。オフィウクスより少し高い位置から攻撃に映る。相手の上から剣を叩き落とした。しかし、その攻撃が当たることが無かった。彼の真上辺りに土の壁が出現しており、ただの土の壁のはずなのに剣でそれを破ることが出来なかったのだ。しかし、それで攻撃を止めるわけにはいかず、相手の後ろに降り立つ。その時には既に火炎放射の魔法は終わっていて、サクラとラピスに優しく語りかけていた。まるで、フローは眼中にないと言っているかのような対応だ。実際に、彼に攻撃できるチャンスがあったのに、かすり傷の一つもつけられなかったのだから、そう思われても仕方ないのかもしれない。


 その余裕に腹が立った彼女は剣を何も考えずに振るう。そんな太刀筋の剣が当たるはずもなく、簡単に防がれる。剣が弾かれたことで少し冷静になった。


 先ほどの戦いでは全く役に立たなかった。その前も一人で決着を着けようと戦っていたのに、結局はボロボロになり、二人に助けられた。自分の無力感を感じている。この男の眼中にもない。彼女の中に芽生えさせられていた悪意はカプリコーンの超能力が解除されても未だに残っていた。サクラの悪意はサクラ自身の心の強さですぐに消滅したのだが、フローは芽生えた悪意が完全には消え切っていなかった。超能力によって芽生えた悪意が、彼女自身が持っていた暗い感情を表に引っ張り出してきてしまったのだ。彼女が暗い心に気が付いていない。気分が落ち込んでいることに気が付いていないのだ。


「ああああっ! こっち見ろっ!」


 フローはいきなり叫び声をあげて、オフィウクスに斬りかかる。しかし、その剣も届かない。だが、彼女が扱えるのは剣だけではないのだ。剣が届かないなら、斧を作り出し、それをぶつける。土の壁を壊すことには成功したが、それ以上の攻撃は前には進まない。ならばと、彼女はランスを作り出した。ほぼ零距離と言える場所から、その武器を彼に向かって押し込めた。オフィウクスはそれを回避するこはなく、土の壁でそのランスを抑えた。そして、土の壁を回転させて、彼女の手からランスを取り上げるように持ち上げ、宙へと放る。そして、隙だらけの彼女が目の前にいる。どんな攻撃を放っても外しようがないほど近い。オフィウクスは掌を彼女に向けた。そこには赤い文字でおうし座のマークが出現した。そして、そこから短い角が出現した。フローはそれを回避できるはずもなく、その角にぶつかっただけで、かなりの勢いで、吹っ飛ばされた。地面に落ちることなく、広場のオフィウクスのいる方向と正反対の壁に叩きつけられた。壁が崩れることはなかったが、彼女にはかなりのダメージが入っただろう。壁にぶつかった彼女はそのまま地面に落ちた。しかし、地面に落ちた彼女はすぐに立ち上がった。


「ふざけるな。私を侮るな」


 ぶつぶつと口から出ている言葉は誰にも届かない。しかし、サクラもラピスも彼女の様子がおかしいことは叫び声をあげたところからわかっていた。しかし、根本的な原因はわからないため、どうすることもできない。だが、このままだと、彼女がオフィウクスに倒されるのは時間の問題だろう。


「ミラクルガールだというのに、他の二人とは違うようですね。自らの心に無地場まれてしまっています。貴女は相応しくない。純粋な欲を持つ者だから、交渉したというのに……。残念です」


 オフィウクスは飛んで近づいてくるフローに向けて、再び手を向けた。そこに出現したのはてんびん座のマークだ。フローが近づいてい来ると、その勢いが徐々に減衰していく。彼の目の前につく頃には勢いはなくなっていて、フローが持っている何と言っていいのかわからないメイスのような物を振り下ろそうとしたのだが、その全てに勢いが乗らない。そして、再びおうし座のマークが、てんびん座のマークと入れ替わり、短い角が出現して彼女を吹っ飛ばした。吹っ飛んでいる途中で翼を広げて、後ろに行く勢いを殺して、壁にぶつかる前にオフィウクスに近づこうとしていた。もはや、彼女に学習能力がないように見えた。

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