一人、散策
翌日からラピスは町長に頼まれたことがあると言って、彼女とは行動できなくなった。午前中に尋ねても既に出かけているようで、中から返事はなかった。せっかく仲良くなったのに、すぐに顔を合わせることすらできないというのは少しだけ寂しかった。仕方なく、部屋の中で過ごしていたのだが、本もない中、部屋でのんびりしているのもつまらなくなってくる。彼女は多少不安ではあるが、町を一人で散策することにして、部屋をでた。仕立てが終われば、このアパートまで来てくれると言っていたが、どうせ町に出るのならどんな感じにできているのか途中経過を聞きに行こうと彼女は考えた。後は、元の世界と同じような行きつけのカフェが見つけたいと言ったところか。読書用の本と言うのはこの世界にはないらしい。物語について他の人に訊いたことはないが、商業地区で本をみなかったところを見ると、元の世界のように簡単に流通している物でもないだと予想できた。とにかく、彼女はこの世界に来た時の鞄を持って外に出た。中には大して使えそうなものはない。お守りのようなものだった。中身は大して変わっていない。町長から貰ったお金を入れただけだ。彼女はその鞄を持って外に出た。
昼過ぎで天気は快晴。春の日と言えるような快適で気持ちが良い。ラピスと一緒に出掛けたかったと思うが、頼まれたことがあるのなら仕方がないと自分を納得させる。天気とは違い、彼女の心は少し曇っているようだった。
広場を抜けて、商業地区の方へ歩いていく。そのまま、シックファッションまで真っ直ぐ歩いていく。当たり前だが、店構えは変わらない。彼女が店の中に入ると、既に店主がカウンターにいた。それもそのはずで、店主は客の相手をしていたのだ。その客は教会の女性が来ているようなシスター服を着ていた。全身がその服に覆われていて、シスター服を着ているという以外の情報は得られない。
「それでは。また来ます」
「ええ。またよろしくお願いします」
シスターが店主に挨拶をして店を出ていく。その際に顔の方も見ることが出来たが、顔半分はマスクに覆われていたし、目元はシスターが被っているベールが覆っていた。彼女はかなりミステリアスな人物だった。
「あら、サクラちゃん。いらっしゃい。服ならあと一着できれば、完了よ」
「あ、こんにちは。そうですか。早いですね」
「まぁ、貴女はかわいいから。早くアイデアを形にしたかったの」
彼女はできた服の一着を着させられた。少し来てみたいかもと口に出したが最後、店主の強い押しに勝てずに、着てみることにした。
彼女は作ってくれた服は二着は桃色系統で、今作っているのは紺色のものらしい。彼女が着せられたのは、白い膝上ほどのスカートのワンピースに、上半身を腰の下くらいまで覆う桜色のケープのような上着を合わせたものだ。シンプルなデザインで特に柄やマークはついていない。
「どう? 何か模様とか入れる?」
「いえ、かわいいです。これ、すっごい気に入りました」
高校生でこれを斬るのは少し幼いかなと思ってしまうが、今の彼女の見た目は中学生くらい。それに、紺色や黒しか着たことのない彼女からすれば、新鮮な服装でもあった。異世界に来たのだから、これも許されるだろう。この一着がここまで可愛いのだから、もう一着も気になってくるのは当然かもしれない。店主に視線を向けると、彼女の手には既にもう一着の服を持ってきていた。
「こっちも来てみて」
もう一着は桃色の上下一体の服で、スカート部分は多くの折り目が付いていて、上半身は体のラインが柔らかく出ている。肘に届かないくらいの袖で、その服の上から白いベストを合わせている。ベストには胸の辺りに、小さな音符のマークが入っている。それが中々その服のかわいさを上げている気がした。彼女はその服もすぐに気に入った。店主は彼女が楽しそうに自分の作った服を着ているだけで、作った甲斐があったという物だ、と店主も微笑んでいた。
「今、持って行ってもいいわ。どうする? 今作っているのはちゃんと貴女の家に届けるわ」
「じゃあ、二着とも持っていきたいです。いくらですか」
「三着目を持って行った時でいいよ」
「え、そうですか。わかりました」
少し戸惑ったが、店主の彼女がそう言うのだから、わざわざ従わないということもない。買った分だけ支払うという常識の中にいたサクラは少し不安になるが、この世界では変なことではないのかもしれない。彼女は服を最初に来てきた制服を来て、残りの服は綺麗に畳んで、鞄の中に入れた。それから、店主と少し談笑して、シックファッションを出た。
彼女にはこの町にあるカフェについて訊いていた。彼女のおすすめは、ウェットブルーという店らしい。商業地区内の端にある落ち着いた店だと言っていた。とりあえず、場所は詳しく教えてもらったので、向かうこと