悪魔の囁き 4
町の中で鎮静化を行い、ラピスはその人だかりに周りと違うような動きをしている人や、フードを深く被っているような服装をしている人を探して周っていた。しかし、それらしい人を探すどころではない。騒ぎを収めるために、周りを確認し続けるなんてことは出来ないのだ。
ラピスやフローに町の騒ぎを任せて、サクラは路地の中を動き回り、リブラを攫って行ったあの男を探していた。広場を中心に路地を見て回る。路地の中では喧嘩は起きていなかった。あくまで、目立つように大通りで喧嘩を引き起こしているように見えた。つまりは、目立たなくては意味がないということだろうか。サクラは思考を回しながらも、探すのを止めることはない。既に、夕日が傾き始めている。空の一部は茜色から藍色へと変化しているんのだ。それほどまでに長い時間、町の鎮静化のために奔走していると考えると、中々の重労働なのかもしれない。しかし、今は弱音を吐いている場合ではないため、彼女は息を切らせながらも走り続けた。疲れを感じていても、変身するわけにはいかない。体力の温存もそうだが、変身すると目立ってしまう。相手はもしかすると、ミラクルガールではない自分を知らないかもしれない。もし、そうなら変身して目立つのは悪手だろう。だから、少し疲れていても変身することはない。町の人々を鎮静化して回っているのだから見た目がばれている可能性はあるが、それでも変身するよりは目立たないという考えて彼女は変身していない。
カプリコーンはそろそろ囁くのを止めようとしていた。これ以上体力を消耗すると、いざ戦闘の時に疲れが邪魔をしてくるかもしれない。そろそろ、ミラクルガールを一人一人奇襲するべく動き出す時期だろうと思い、彼は路地の中から出ようとしていた。彼の格好は今までと変わらない。上半身は裸で、下半身を隠しているのは裾のボロボロになった少しゆとりのあるものだ。紫色の肌は目立つだろう。そして、頭には短いながらも角もついている。そのまま、人前に出れば、彼は間違いなく、ミラクルガールに気が疲れるだろう。しかし、彼はそんなことも考えずに、路地から大通りの方へと出てしまった。
紫肌の男を最初にみつけたのはフローだった。顔女は喧嘩を他の二人よりも簡単に止めることが出来ていた。空を飛べるのだから、人だかりの中心に到達するのは難しいことではなかった。彼女は紫肌の男を見つけると、胸に鍵を差して、変身する。光が彼女が包み込んで、光が解けると、そこには水色の衣装に身を包んだ。フローがいた。そこにいた人々は、彼女に見惚れて、喧嘩をしていた人達も喧嘩を止めた。集まっている人々もそこがすぐに戦場になることを察して、人が四方八方へ散り散りに走って消えていく。そこに残ったのはフローとカプリコーンだけだった。
「よぉ、待ってたぜ。リブラの力を還してもらうぜ?」
カプリコーンは自分が思ったよりも冷静だなと感じていた。もっと感情に任せてすぐにでも飛び掛かって戦闘を開始すると思っていたのだ。それがそんなことはなかったのだ。
「悪いが、ここまで騒ぎを大きくしたんだ。それ相応の罰を受けてもらおう」
フローはポケットからガラクタを出して、それを分解して再構築する。それは、リブラとの戦闘で使っていた完全に固形化していない半液体状の金属だった。それを彼女は肩や胴に巻き付くように付けて、防具とした。そして、武器はランスだ。先端が尖っていて、持ち手に近づくにつれて太くなっている槍。その長さは彼女自身の身長より少し長い暗いだろうか。彼女は先手必勝とばかりに、翼を広げて地面を蹴った。低空飛行で、相手に近づいていく。ランスの先端はカプリコーンを狙っている。リブラと違い、彼はそのランスで腹を貫かれるだけで死んでしまう。だが、彼はそれをギリギリまで避けず、自身の手の届く範囲に来たところでようやく、動き始めた。しかし、それは回避するような動作ではない。彼女のランスの先端に触れないように、手を伸ばしてランスの横の辺りを腕に沿わせている。ランスの先端は徐々に狙いを逸らされて最終的には完全に彼に当たる軌道を逸れてしまった。彼女はすぐにランスから手を離すことが出来ずに、彼の横を通り過ぎるところだった。しかし、素直にそれが許されるはずもなく、半身だけ引いて彼女の腹を狙うように、下から上に突き抜けるように拳を振り上げる。彼女が纏っている半液体状のアーマーが鈍い音を上げた。アーマーは彼女の体を守ってはいたが、彼のパンチの衝撃を完全に抑えることは出来ずに、空気が口から抜ける。そして、強制的にランスから手を離すことになる。ランスは地面に突き刺さりながら前進して、止まる前に消失した。フローは痛みに耐えながら、地面に落ちると攻撃の隙を与えると思い、翼を広げて空に留まろうとしていた。しかし、カプリコーンの背中には蝙蝠のような翼が生えていて、彼が既に横にいることに気が付くのが遅れた。彼女は体勢を立て直す前に、地面に叩きつけられるようにぶん殴られる。一瞬の判断で、アーマーの一部を分離して盾にしたおかげで、多少はダメージも軽減出来ていた。しかし、その威力はすさまじく、彼女が地面に叩きつけられると同時に、地面に強いてあるレンガなどが砕け散った。土埃が巻き上がり、そこで激しい戦闘が起こっているというのがわかるだろう。激しい音と荒れた場所があれば、二人は来るだろう。フローはそう思ったが、二人が来る前に決着を付けてやろうと目論んでいた。




