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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
28 信頼VS信仰
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信頼VS信仰 6

 盾に伝わる衝撃はやがてなくなった。それと同時に彼女たちの周りに喧騒が戻ってくる。町の中の大通りの一つで繰り広げられていたはずの戦闘は、誰にも知られてはいないだろう。そこら辺を歩いている人たちからすれば、いきなりそこにサクラたちが現れたことになる。盾は残っているが、はじけ飛んでいたレンガの道も、倒壊していた建物も何事もなかったかのように、傷一つない状態でそこにあった。そして、サクラが立ちあがる。フローも大きな盾から手を離して、盾は分解されて、粒子になって消えた。サクラの下にはリブラがいた。そして、サクラの手には鍵がある。その鍵の頭にはオメガの下に一本だけ横線が描かれていた。それはてんびん座のマークだ。確かにその鍵にはリブラの力を封印していた。だが、サクラの下にいるリブの胸の辺りが上下しているのが見えた。それは呼吸している証だ。眠っているように死んでいるというわけではなく、眠っているようにしか見えないのだ。きっと脈を計れば、血管に血が流れているのを感じることが出来るだろう。


「リブラ! まさか、やられちまったのか」


 ボロボロのサクラたちの前に現れたのは、紫色の肌の男だ。その男には肌と同じ色の蝙蝠のような翼を広げていた。彼は焦っている様子だ。サクラの下にリブラがいるのを見ると、彼は今にも飛び掛かってきそうな気迫を放っていた。フローは再び武器を生成しようとしているが、もはや彼女が再構築するための物が手持ちにない。コピー空間から脱してしまったため、瓦礫はなくなっている。彼女の近くに落ちているものはない。そして、ラピスも使用できる魔気はほとんど残っていない。魔気を取り込むことは出来るだろうが、戦えるだけの魔気を取り込むとなると、少しだけ時間が必要だった。それでも、リブラの仲間だと思われる男を前に、逃げるなんてことは出来ない。


 男が翼を広げて低空飛行で彼女に近づいてくる。フローとラピスが戦闘態勢に入る。二人は拳を構えて、相手に備えていた。しかし、男は彼女たちを無視して、二人に後ろに走り去る。二人はそれに反応することは出来ず、サクラの方へと接近を許してしまう。サクラと男の目が合った。サクラは戦闘に既に倒したリブラを巻き込まないように、彼女の上からどけた。サクラが戦闘態勢に入ったものの、男はサクラに見向きもしない。男はリブラの近くに移動すると、彼女の様子を一瞬だけ見た。彼女が死んでいないことを確認すると、安堵したような表情を一瞬だけした。そして、男はリブラを横抱きで持ち上げると、空へと上がる。


「……ミラクルガール。俺はお前たちを倒す。リブラがやられた分までやり返してやる」


 男は去り際に振り返り、冷たい目でサクラたちを睨んでそう言った。それを言い終わると、彼はどこかへと飛び去った。間違いなく、彼はリブラの仲間である。そして、リブラの仲間と言うことは、ゾディアックシグナルのメンバーである可能性が高い。


 彼が去ると、フローが膝から崩れ落ちるようにして、膝を付いた。疲れが出るのも当たり前のことだろう。サクラも疲れた顔をしている。ラピスも自身の体がこれ以上は戦えないと知らせているのを理解していた。ヘマタイトとリブラとの連戦。フローに関してはリブラと一対一での戦闘。死なずにここにいるだけで奇跡とも呼べるかもしれない。三人だったからギリギリでも勝てたのだとサクラは心の底からそう思った。三人は満身創痍のまま、サクラの部屋に集まった。食事もとらず、家に帰ってきてようやく変身を説いていないことに気が付いて、胸の辺りから鍵を引き抜いて変身を解除した。そして、変身を解除したせいで気が緩み、疲れが襲ってくる。もはや、体を横にすれば眠れそうなほどだ。そして、サクラが部屋の中心で横になった。そして、彼女がすぐに寝てしまった。そんな彼女を見て、ラピスとフローが彼女の左右に寝転がり、眠った。窓から入る火の光が、彼女たちを暖かく照らしていた。




「カプリコーン。私は負けてしまいました。主の試練に打ち勝つことは出来なかったのです。主からいただいた力も、この体には残っていません。きっと主に見放されると思います。……そんな私は、これから、どうすればいいのでしょうか……?」


 リブラをかかていたカプリコーンは町の中の路地の奥の奥にあるアパートの自分の部屋の布団に彼女を寝かせていた。しばらく眠っていた彼女は目を覚ましたのだが、どうにも暗い雰囲気だった。彼女にとっては主だけが信じられるものだった。ミラクルガールに負けるということは、彼女は試練に乗り越えられなかったということだ。カプリコーンは気の利く言葉などを思いつかない。だが、彼はリブラをただの同僚とは思っていない。これまで一緒に活動してきたのだ。見捨てるなんてできるはずがない。


「リブラ。まずはここにいてくれ。俺が必ず、ミラクルガールを倒す。そして、力を取り返してやる。だから、ここで待っていてくれ」


 結局は、それしか言えない。だが、リブラはそれでも、笑顔になってくれた。前のように元気のある笑みではない。しかし、可愛らしい笑顔だった。カプリコーンは彼女がそんな風に笑うのを見たことが無かった。だから、彼女のその笑顔にドキッとした。そして、その笑顔は彼に決意の力を与えたのだった。

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